日本相撲協会理事の貴乃花親方(37=元横綱)が、退職の意思を一夜で撤回した。4日の同協会臨時理事会で、解雇処分となった元大関琴光喜関の処分軽減を主張。認められずに、協会に退職願を提出した。これを受理されなかった同親方は、一夜明けた5日には弟子の育成に力を入れる気持ちを表明した。貴乃花グループ関係者への処分が続くなど、協会内には「しこり」が残っている。

 元大関琴光喜関らの処分が決まった臨時理事会から一夜明け、貴乃花親方はいつもと同じように、三重県桑名市のけいこ場で弟子の指導を行った。午前8時すぎ、けいこを終えると、理事会での退職願提出について聞かれたが「理事会であったことは、私の口からは言えません」と口をつぐんだ。しかし、午後になると「まずは弟子の育成が頭の中にいつもあります。今日も朝げいこをやりましたから」と、退職しない意向を示した。

 騒動の始まりは、4日の臨時理事会だった。琴光喜関の解雇に反対し、番付を降格させて再度チャンスを与えるべきだ、との主張を貴乃花親方が行った。だが、受け入れてもらえなかった。結局、琴光喜関は追放を意味する解雇。処分が決まると、貴乃花親方はスーツの内ポケットから退職願を取り出し、村山理事長代行に提出した。だが、会議の最後に「受け取れません」と返されたという。

 ほかの理事からはこの日、厳しい声が上がった。放駒親方(元大関魁傑)は「正直、驚いた。まだ(騒動の)決着がついていないのに。理事としての責任もある。なんでか、理解できない」とし、二所ノ関親方(元関脇金剛)は「なんでそこまでしたのか。とんでもなく、無責任。あれだけ立派なことを言っていたのに…」と指摘した。

 一本気な性格の貴乃花親方が、突っ走ってしまった背景には、いくつかの要因がある。兄弟子だった大嶽親方は、琴光喜関を介して野球賭博をやっていたと話し、現役大関の処分軽減を懇願した。貴乃花親方は理事として、この思いを酌んでやりたい。そんな気持ちが、行動に表れたようだ。

 また、2月の協会理事選で、逆転当選を支えてくれた大嶽親方が解雇、阿武松親方(元関脇益荒雄)が降格処分を科されるなど、貴乃花グループ関係者が憂き目にあった。貴乃花親方が、責任を感じざるを得ない状況が続いていた。

 理事選の際は、二所ノ関一門を飛び出して出馬した。立浪一門の意向に反して、貴乃花親方に投票した安治川親方(元前頭光法)は、名跡を変更して貴乃花グループ入りしようとしたが、難航したまま。どちらも、角界の「慣例」を破った行動で、快く思わない関係者も存在する。思い通りにいかない下地は常にある。

 ただし、理事会の中で武蔵川理事長が「こういう状況だからこそ、君がしっかりしなければならない」と慰留したように、世間からの期待は大きい。協会理事にとどまり、やるべきことはいくらでも残されている。