<大相撲九州場所>◇2日目◇15日◇福岡国際センター

 「日本人ホープ」と呼ばれて久しい東前頭筆頭の稀勢の里(24=鳴戸)が、歴史に名を残す大仕事をやってのけた。取組前までの対戦成績は11連敗中で、通算4勝20敗だった横綱白鵬を攻めに攻めて寄り切り、大金星を挙げた。先場所までは2場所連続で善戦しながら、あと1歩足りなかったが、休まずに攻め続けて、白鵬の連勝を「63」で止めた。大型連勝を止めた力士は、出世するのが定説だけに、今後の成長が注目される。

 土俵に1人残った稀勢の里は、目を見開いていた。視線の先には、土俵下で転がる白鵬がいた。夢見た光景が現実となり、信じられないような表情になっていた。「勝ち名乗りを受けてやっと『勝ったんだな』と思った」。31本もの懸賞を受け取り、大歓声を浴びても、実感はわかなかった。

 とにかく攻めた。組まれても慌てず、突き放しで逆に白鵬を慌てさせた。目まぐるしい攻防の末、最後は寄り切った。「思い切って立ち合いで当たることと、相手の十分にならないことだけ考えた。うまく対応できた。冷静にできた。休んだら負けだから、必死だった」。さすがに興奮を隠しきれず、勝っても負けても取組後は寡黙な男が、いつになく冗舌だった。勝った瞬間の感想を問われ「あれ?

 あれ?

 という感じだった」と苦笑いした。

 ここまで連勝中の白鵬を最も苦しめていたのも稀勢の里だった。師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)は取組前に「先場所はお客さんから『キャーッ』と悲鳴が上がった。名古屋場所は物言いがついてもおかしくなかった。白鵬が一番嫌がる体勢に持っていければ」と話しており、狙いは当たった。

 04年11月の九州場所で、貴花田(現貴乃花親方)に次ぐ史上2位の18歳3カ月で新入幕を果たした。その1年8カ月後には新3役となり「日本人ホープ」と、ファンからも相撲協会関係者からも期待された。だが現在まで伸び悩んだ。この日の朝げいこ後は「九州は新入幕の場所。初心に帰り昔の相撲を思い出してやりたい」と、ガムシャラに攻めることを誓っていた。

 「日本人ホープ」も「大関候補」も、関脇栃煌山に明け渡した格好だった。それだけに、この日の白星を「きっかけにしたい。自信になれば、いい方向に進めば」と、とらえていた。放駒理事長(元大関魁傑)も「ひと皮むけるチャンス。そうなってほしい」と、期待を寄せた。

 69連勝の双葉山は、当時前頭3枚目の安芸ノ海に敗れた。だが安芸ノ海は横綱まで上り詰めた。63連勝の江戸時代の横綱谷風は小野川、53連勝の千代の富士は大乃国と、ともに横綱に敗れている。稀勢の里が「伏兵」でないことは活躍で示せばいい。「日本人が(止めないと)という気持ちがなかったといえばウソ。勝因はあきらめなかったこと」。「打倒白鵬」へのこだわりを「三度目の正直」で達成した。【高田文太】