<大相撲技量審査場所>◇初日◇8日◇東京・両国国技館

 大相撲の技量審査場所が始まった。八百長問題が完全に解決していないため、興行色を排除して開催される。

 支度部屋の雰囲気が、変わった。取組後、嘉風は髪を結ってもらいながら、自分の相撲を携帯電話の映像で振り返るのが常だった。今場所は、自宅に置いてきた。「相手を電車道で持っていく相撲を取れば、動画は見なくていいじゃないですか。これがないと相撲が取れないわけじゃない」。真剣勝負を貫いてきたプライドを示した。

 一部力士が携帯メールで取組の打ち合わせをしていたことがきっかけで、八百長問題が発覚した。再発防止策として、関取衆と付け人は、国技館に入場する際、携帯電話を預けることになった。この日、持ってきた関取は半数以下。日ごろから持参しない豪風は「持ってくるのは(7月の)名古屋場所だけ。甲子園の県予選の結果を知りたいから」と話した。

 記者同士でも、支度部屋での使用は自粛しようと申し合わせた。うっかり、携帯サイトで取組の勝敗を確認しそうになり、妙な緊張感に包まれた。

 「技量審査場所」は興行でないため、懸賞や外部表彰をすべて辞退し、観客に無料開放された。一部力士から提出された携帯電話の解析が終わっていないため、本場所は開催できなかった。関与を認定された親方、力士ら25人は角界を去った。携帯電話に振り回されっぱなしだったが、使い方によっては、幸せも運んでくる。

 元幕内北桜の小野川親方は館内の警備を担当しつつ、サインや記念撮影をせがまれた子供と仲良くなると、自分の携帯電話番号を教えてしまう。「その子供たちが、お相撲さんになるかもしれない。角界に入らなくても、大人になって相撲を見に来てくれるかもしれない。子供たちから、元気をもらうことも多いんです」。実際、北の湖部屋の三段目相山は、これがきっかけで力士になった。

 佐渡ケ嶽部屋は、入門から1年間は携帯電話の所持が許されない。この部屋で育った関脇琴奨菊はこの日、一気の寄りで白星を挙げた。千葉・松戸市の部屋までの道中、節目の日には世話になっている人に携帯電話で報告を入れる。その数は10人にもなるという。母の日だったこの日、母美恵子さんに花を贈った。「これから電話します。こんなことするのは、最近になってからなんです」。

 携帯がすべて悪いわけじゃない。日本相撲協会の携帯サイトで、ダウンロードできる待ち受け画面の人気NO・1は「がんばろう日本」と入った力士のイラストだ。力士たちの自覚次第で、八百長工作の道具にもなれば、大相撲を盛り上げるきっかけにもなる。【佐々木一郎】