<大相撲技量審査場所>◇6日目◇13日◇東京・両国国技館

 ブラジル出身の日系3世、魁聖(24=友綱)が、栃乃若(23)を押し出し、6戦全勝とした。新入幕場所で初日からの6連勝は、91年九州場所で7連勝した貴ノ浪以来、20年ぶり。新十両、新入幕のいずれもNHK中継がない不運に見舞われながら、八百長とは無縁の姿勢が、花を咲かせ始めた。全勝は魁聖と横綱白鵬(26)の2人だけになった。

 取組後、魁聖を取り囲む記者の数は、日に日に増えてきた。記録を聞かされると「そうですか…、頑張らないと」とポツリ。全勝は横綱と2人だけになったことに触れられると「そんなこと言わないで…。たまたまっす」と照れた。南米初の幕内ながら、父方の祖父母が日本人という血筋らしく、控えめにはにかんだ。

 取組前は、初めて横綱土俵入りで露払いを務めた。「ちょっとそんきょがきつかった。思ったより、長かった」と苦笑いしたが、所作を無難にこなした。間近で横綱の晴れ姿を見て、刺激を受けた。自分の取組では、193センチ、174キロの体で圧力をかけ、基本通りに腰を落としつつ、押し出した。

 ブラジルで柔道をやっていたが、体の大きさを見込まれて転向した。「弟は最初の稽古で嫌になったけど、オレは力で勝てたから、いいなと思った」。現在、競技人口は約200人。スパッツを着用し、まわしを見た人の多くは「おむつみたい」とバカにする。それでも相撲に引き込まれ、06年7月に来日した。

 兄弟子の魁皇が毎日稽古場に下りてくる姿勢を肌で学び、昨年7月の名古屋場所で新十両、今場所で新入幕に駆け上がった。しかし、前回は野球賭博、今回は八百長問題の影響で、いずれもNHK中継がなく、時差12時間のサンパウロに勇姿を届けられなかった。

 母ロザナさん(48)は言う。「すごく苦労したと思いますが、私には何も言いません。彼がすることは、いつも満足や喜びをもたらしてくれます。以前、リカルドが日本語でインタビューに答えるところを見ました。おばあちゃんは感心していました。ブラジルを出る時には『ご飯』としか言えなかったのですから」。

 「ご飯」という言葉を教えてくれたのは、腹をすかすことだけはないようにとの、親心だった。今は流ちょうに話すが、知らない言葉もある。「難しい言葉は『八百長』。意味が分からず『何それ?』って思ったので、人に聞いた」。真剣勝負を貫き、幕内を盛り上げ始めた。【佐々木一郎】