<大相撲技量審査場所>◇14日目◇21日◇東京・両国国技館

 津波被害で大打撃を受けた故郷の茨城・大洗町を離れて、序二段の豊乃浪(20=立浪)が奮闘した。荒篤山(17)に敗れたが、今場所は4勝3敗で勝ち越し。信じ難い惨状に一度は入門をあきらめかけたが、場所直前に上京して家族への感謝と故郷への思いを胸に土俵に上がった。横綱白鵬(26)は大関把瑠都(26)を寄り切って13勝目。栃ノ心(23)が2敗を守ったために優勝は決まらなかったが、1差をつけたまま今日22日の千秋楽を迎える。

 立ち合い、豊乃浪は頭から思い切りぶつかった。荒篤山にかわされると、目標を失ってそのまま突き落とされた。「失敗しました。相手も当たってくると思ったので…」。それでも4勝3敗で勝ち越し。「地元のためにも、1つでも多く勝ちたかった」と、大洗町を思い出すように言った。

 初土俵は昨年11月、専門学校で自動車整備士の資格をとって3月中旬に上京する予定だった。しかし、直前に東日本大震災。「学校にいて、全員で避難しました。津波の被害がすごく、町が跡形もなかった。違う世界にいるようだった」と振り返る。ライフラインは止まり、余震も続いた。

 「とても、相撲どころじゃなかった。自宅は無事だったけれど、海に近い親戚の家は壊された」。部屋入りを延期し、がれき撤去や片付け作業に追われた。家業の自動車販売も痛手を被った。「もう、相撲は無理かなと思いました」。

 しかし、中学時代にレスリングで全国制覇した父弘行さん(45)に背中を押された。「こっちのことはオレがやる。大丈夫、お前は行け」。東京に来たのは4月29日、初場所の時も15日間部屋にいただけで、ほとんど相撲は素人だった。それでも、父の心遣いに感謝しながら勝ち越した。

 「宮城や福島に比べたら大したことはないけど、大洗も忘れられた被災地なんです」。人的被害がなく、メディアの露出も少ない。それでも、津波と原発事故による風評被害で町を支える漁業、観光業は壊滅的な状況。まだまだ被災は続いている。「今年の夏は海も大変。だからこそ、頑張りたい」。豊乃浪の心、大洗町に届け-。【荻島弘一】

 ◆豊乃浪祐貴(とよのなみ・ゆうき)本名・高畠祐貴。1990年(平2)11月6日、茨城・大洗町生まれ。那珂湊一高柔道部で総体出場。水戸産業技術専門学院を経て立浪部屋入り。昨年11月に初土俵を踏み、最高位は今場所の東序二段52枚目。181センチ、144キロ。

 ◆茨城県東茨城郡大洗町(おおあらいまち)県中部の太平洋岸で、水戸市の南に隣接している。水族館や海水浴場など観光で有名。あんこう鍋、しらすなど名物も多い。人口は約1万8000人。東日本大震災では人的被害こそなかったが、沿岸部を中心に津波被害は甚大だった。