<大相撲名古屋場所>◇8日目◇17日◇愛知県体育館

 大関とりに挑戦中の関脇琴奨菊(27=佐渡ケ嶽)が、大関魁皇(38)を寄り切りで下した。小学生時代から憧れる故郷・福岡の英雄にも気後れせず、7勝1敗とした。昇進の目安となる12勝へ向け、また1歩前進。今日9日目は、横綱白鵬(26)と並んで全勝を守る大関日馬富士(27)と対戦する。

 相手が誰でも、今の琴奨菊には関係ない。魁皇とは過去11勝16敗。相手の右上手を許さず、逆に自分が右上手を取って、寄り切った。「自分は重いんだと言い聞かせて、そのことだけを考えていきました」。この日のテーマは(1)上手を取らせない(2)小手投げを怖がらない。魁皇の「伝家の宝刀」を封じて、勝ち名乗りを受けた。

 福岡出身者にとって、魁皇は特別な存在だ。小学校の卒業文集で、琴奨菊はこう書いた。

 ぼくの将来の夢は、相撲界にはいって、相撲とりになることです。そして、武双山や土佐ノ海や琴錦やかいおうのようになりたいです。そして、横綱になって、明治神宮で土俵入をしたいです。

 「かいおう」と漢字で書けなかった12歳の時、魁皇はすでに関脇。思い出の一番は、今も魁皇との初顔合わせを挙げる。だが、あれから15年たち、意識は変わった。この勝利の重みを聞かれると「誰に勝っても同じ1勝。だから、この一番を大事にいけと、ある人に言われたんです」と答えた。過度な意識は振り払い、もうすぐ肩を並べる地位にいる者としてのプライドを示した。

 東の花道では、福岡・柳川市から駆けつけた父菊次一典さん(55)とグータッチ。うなぎ20匹を差し入れた父は「落ちついていて良かった。ホッとしました」と胸をなで下ろす一方で、琴奨菊は「ここまで来たら、精神的な部分が大きい。リラックスして臨みたい」と、大きく構えた。心技体が、整ってきた。【佐々木一郎】