<大相撲名古屋場所>◇14日目◇23日◇愛知県体育館

 大関日馬富士(27=伊勢ケ浜)が初日からの連勝を14に伸ばし、12場所ぶり2度目の優勝を決めた。1敗で追走する横綱白鵬(26)との直接対決。1分を超える大相撲の末に寄り切り、白鵬の史上最多8連覇を阻んだ。日馬富士は09年夏場所以来の賜杯を手にした。

 低く、速く、突き刺さるように攻めた。これぞ日馬富士の真骨頂。頭から当たってすぐ左前まわしをつかんだ。最高の立ち合い。「何があっても離したらダメと思った」。左腕にあらん限りの力を込め、出し投げを連発。白鵬の体勢を崩しながら寄り切った。千秋楽を待たずして、約2年ぶりの復活優勝を決めた。

 日馬富士

 最高に気持ちがいい。本当によかった。悔いのない相撲を取りきりたかった。全身全霊でぶつかっていった。

 朝稽古後には「命を懸ける」と打倒横綱の決意をにじませていた。そして8連覇を阻止。今場所最多6700人の歓声の中で勝ち名乗りを受け、大きく息をついた。淡々とした語り口はいつもと同じだが、顔は紅潮し、声はかすかに震えていた。「何度も一緒に稽古してきたから」と、猛稽古を身上にする大関が、同じモンゴル出身力士としての意地を土俵に集約した。

 132キロと幕内で2番目の軽量。先月の大阪・堺合宿で立ち合いを磨いた。申し合い後に毎日30回の立ち合いを追加。そんな成果が、大一番に実を結んだ。前日13日目の夜には元横綱朝青龍から電話があった。「緊張すんな。頑張れよ」と激励を受けていた。

 初優勝後は4度の10勝が最高。左膝、右足首などを故障してスランプに陥り、優勝争いから遠ざかった。「大関になってから本当にけがが多かった。でも支えてくれた人のおかげで、2年ぶりに優勝できた」。

 周囲で支えた1人が、八百長問題で引退した元前頭安壮富士の杉野森清寿さん(35)だ。今は所属部屋の「コーチ」を務め、大関も稽古場で胸を出してもらっている。日馬富士は言う。

 「僕の相撲は安壮富士関と(引退した元幕下)青馬さんを見習ったもの。けがしたとき、安壮富士関にはよく声をかけてもらった。感謝してます」。5月の断髪式にも出席し、ハサミを入れた。「残念で胸が痛かった」。賜杯を手にすることが恩返しだと誓った。

 場所前に来日した母ミャグマルスレンさんの手料理も日々の活力となった。角界の騒動で延期されていた国内の結婚披露宴が10月10日に決まったが、その日の夜にはモンゴルから友人ら約50人を招いて宴会を予定。来年5月には母国でも披露宴を行う計画がある。

 来場所は綱とりとなる。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は「大関で満足したらダメ。何度も言ったから耳にたこができて、つぶれたんじゃないか」と笑う。初優勝した翌場所は5日目で2敗を喫し、夢がついえた。「チャンスをつかむよう努力して頑張りたい」。この2年間で成長した姿を、真価が問われる場所でも見せつける。【大池和幸】