<大相撲秋場所>◇2日日◇12日◇東京・両国国技館

 日本人力士に、大関キラーが誕生した。西前頭筆頭の隠岐の海(26=八角)が、綱とりを狙う大関日馬富士(27)を突き落としで下した。初日の琴欧洲戦に続く勝利で、大関戦通算7勝2敗。魁皇引退で日本人大関が不在となり、観客の入りがワースト記録を更新する中、未完の大器が台頭してきた。

 アッと驚く、逆転勝ちだった。立ち合い後、日馬富士の突き押しに、隠岐の海は後退するばかり。一方的にやられたが、俵に足をかけながら突き落とし。体を入れ替えるように、先場所優勝者を土俵下に追いやった。

 「内容は全然ないですけどね。(相手は)正大関だし、勝つだけでもすごいかなって…」。展開を反省したが、あきらめない姿勢は、観衆に認められた。今場所から始まったファンによる敢闘精神の評価で、この日の1位を獲得した。

 幕内8場所目。まだ三役経験がなく、大関戦は5月技量審査場所が初めて。だが、大関戦は不戦による1勝を含めて、7勝2敗の結果を残す。上位に強い理由は、太い神経にもある。「上位とやった方がいい。負けても何も言われないし、勝ったら喜ばれる。観客のテンションは高いし、いいことしかない」。かねてイケメンが話題にされるが、192センチの長身とともに、この大物感も、魅力となって光ってきた。

 観客減に歯止めが利かない今、隠岐の海も頭を悩ませる。「余ったチケットを協会員に配るとか、もっと値段を下げるとか…。それで満員になれば、また来なきゃってなるんじゃないかな。親方が、いつも言うんです。飲んだ時のグチで」。師匠の八角親方(元横綱北勝海)が、広報担当として奮闘するうち、弟子として視野も広がってきた。

 人気回復の起爆剤として、ファンが待っているのは、日本人力士の活躍。知り合いから、公式ウェブサイトの開設を勧められるなど、今がブレークの時だ。今日3日目は、白鵬戦。「狙っていきますよ。作戦はない。本能っす」。横綱、大関への昇進を狙う3力士が話題の場所で、別の個性派も存在感を示してきた。【佐々木一郎】

 ◆隠岐の海歩(おきのうみ・あゆみ)本名・福岡歩。1985年(昭60)7月29日、島根・隠岐の島町生まれ。隠岐水産高卒業後、航海士を目指して同校専攻コースに進学したが、中退して八角部屋に入門。05年初場所初土俵。09年春場所新十両、10年春場所新入幕。最高位は西前頭筆頭。192センチ、156キロ。