<大相撲秋場所>◇12日目◇22日◇東京・両国国技館

 大関とりを目指す関脇琴奨菊(27=佐渡ケ嶽)が、西前頭11枚目の臥牙丸(24)を寄り切り、2敗を守った。緊張で土俵上の所作を忘れそうになったが、メンタルトレーニングの成果を発揮。落ち着きを取り戻し勝利につなげた。昇進の目安は、残り3日で2勝。今日13日目は、稀勢の里(25)に敗れた横綱白鵬(26)に挑戦する。

 支度部屋に戻った琴奨菊は、まだ顔がこわばっていた。「緊張した。(大一番という)意識はないと思ったけど、心のどこかにあって…。いい相撲が取れました」。低い体勢からのガブリ寄り。しびれる場面でも、自分の動きで白星をもぎとった。

 土俵上では、動揺を抑えるのに必死だった。相手と正対し、四股を踏む所作を忘れそうになった。「真っ白に飛びました。そっからは『冷静に冷静に』と自分に言い聞かせて…」。この後、通路奥にある緑の非常口マークに視線を上げて集中。最後の塩まきの前には、グッと腰を反らせる動作で、戦闘態勢を整えた。

 心の鍛錬の成果だった。今月に入ってから、東海大の高妻容一教授(56)を訪ねた。なでしこジャパンのFW永里優季も師事するメンタルトレーニングの第一人者から、指導を受けた。イチローがバッターボックスに入る時のように、ルーティンワークの重要性を知った。視線を上げ、体を反らせる-。今場所から早速取り入れ、過緊張を振り払った。

 「いろんなことを教わり、相撲に取り組む姿勢が変わったかな」と琴奨菊。先場所終盤は硬くなって平幕に連敗し、昇進を逃した。前日に敗れ、また同じ状況になりかけたが、連敗は阻止した。前夜は台風で車が渋滞し、吉野家に寄って大盛牛丼を2杯食べた。帰路は3時間半もかかったが「車の中は、いい時間だったかもしれないですね。(自分を)見つめ直して」と、プラスにとらえる強さもあった。

 今日13日目に横綱と当たり、最後の2日間は大関戦になる。昇進ノルマは、あと2勝。「思い切りやるだけ。明日のことは、明日考えます」。コメントも今場所のルーティンワーク通り、ぶれることがない。白鵬を前にしても、体を反らせて、集中モードに入っていく。【佐々木一郎】