日本相撲協会は28日、東京・両国国技館で九州場所(11月13日初日、福岡国際センター)の番付編成会議と理事会を開き、関脇琴奨菊(27=佐渡ケ嶽)の大関昇進を満場一致で決めた。千葉・松戸市の佐渡ケ嶽部屋で行われた伝達式で、琴奨菊は「万理一空(ばんりいっくう)」という四字熟語を使って、口上を述べた。日本人大関の誕生は、07年の琴光喜以来4年ぶり。

 大関昇進を伝える使者に、琴奨菊がはっきりと口上を述べた。「謹んでお受けします。大関の地位を汚さぬよう、万理一空の境地を求めて、日々努力、精進致します。本日は誠にありがとうございました」。祖父一男さん(故人)の遺影を持って、見守った父一典さんは、涙を流していた。

 相撲を教えてくれた祖父の「一」が入った四字熟語は、後援会事務局長が教えてくれた中から、選んだ。「朝鍛夕連」「一意奮闘」「意思堅固」も候補に挙がったが、剣豪・宮本武蔵が著書「五輪書」の中で用いた言葉に決めた。

 琴奨菊は会見で「すべての理(ことわり)は1つの空(くう)に帰する。目指す先は1つなのだから、目標を見失うことなく、努力すべし」と説明。課題の精神面を克服して12勝した秋場所を振り返り、あらゆる努力が結果につながったという共通点を見いだした。

 「万理一空」は、元プロ野球選手の桑田真澄氏の座右の銘でもある。「知ってました。桑田さんは、日本でも米国でもやることは1つ、という意味。桑田さんがマウンドでつぶやくように、自分も取組前に『冷静に』とか、言い聞かせることがあるんです」。面識はないが、類似点があった。

 野球好きの琴奨菊は、親交あるソフトバンク本多内野手からも、躍進のヒントを得ていた。「場所前にまじめな話をした。盗塁王を意識すると、ベースの手前で足が合わなくなる。立ち合いと一緒で、スタートの(体の)角度だけ意識したらうまくいく。すごく共感できました」。

 この日、記者会見や祝賀会の後には、テレビ5番組の中継や収録をこなした。緊張感から解放されると、素顔もみせた。福岡出身者らしく「ソフトバンク戦の始球式をしたいんです」と話し、自分への褒美としてブライトリングのスイス製腕時計の購入を考えていることも明かした。12月中旬には昇進披露パーティーが予定され、歌手・大友康平を招待する意向。大関に昇進すれば、身の回りもスケールアップする。「この立場になったことを誇りに思って、頑張っていきます」と決意を示した。【佐々木一郎】

 ◆万理一空

 江戸時代の剣豪・宮本武蔵が説いた思想。兵法などについて書かれた「兵法三十五箇条」では、最後に「万理一空の所、書きあらわしがたく候へば、おのずから御工夫なさるべきものなり」と記述。解釈を各自に委ねている。琴奨菊は、どんな理論も1つの理論につながり、努力と心が交わった先に大関がある、などと説明した。

 ◆大関昇進の口上と四字熟語

 初代貴ノ花、北の湖、若三杉、千代の富士らは「一生懸命」という言葉を入れたが、比較的シンプルに述べてきた。難解な四字熟語が入るようになったのは、2代目貴ノ花の「不撓不屈(ふとうふくつ)」から。若乃花は「一意専心」、貴ノ浪は「勇往邁進(まいしん)」、武双山は「正々堂々」、白鵬と日馬富士は「全身全霊」、琴光喜は「力戦奮闘」。各力士が特徴ある熟語を用いてきた。