大相撲九州場所(13日初日、福岡国際センター)で大関とりに挑戦する関脇稀勢の里(25=鳴戸)が、亡き師匠からの期待を目の当たりにした。急性呼吸不全で死去した前鳴戸親方(享年59=元横綱隆の里)の通夜が10日、千葉・松戸市の「セレモニースギウラ東松戸駅前ホール」で営まれた。祭壇の前には、師匠の横綱昇進時に贈られ、「稀勢の里」の命名に由来する掛け軸が飾られた。今日11日は、同所で告別式が営まれる。

 白い生花に囲まれた遺影の師匠は、わずかにほほ笑んでいた。長女朋子さんの成人を祝った今年1月、家族で撮影した写真の一部が使われた。稀勢の里は通夜で、関係者席の最後列で約600人の参列者を出迎えた。紋付きはかま姿で、幕内若の里と高安に挟まれた席で、亡き師匠に思いをはせた。

 遺影の左下には「作稀勢」(さきせ)と揮毫(きごう)された掛け軸が置かれた。前鳴戸親方が現役時代、横綱に昇進した83年、福井・永平寺の秦慧玉(えぎょく)元貫首から贈られたもの。「稀(まれ)なる勢いになれ」との意味が込められた。稀勢の里が新入幕を決めた04年九州場所前、萩原から改名。しこ名を考案した前鳴戸親方は、自らに贈られた言葉を弟子に引き継いでいた。期待の表れだった。

 改名は通常、番付発表の時に公表されるが、当時も注目が高く、本場所の1カ月以上も前に発表。前鳴戸親方は「相撲は五穀豊穣(ほうじょう)の政(まつりごと)であり、のぎへんは稲作文化を表す。稀な勢いをつくってほしいという願いを込めた」と話し、掛け軸のエピソードは伏せられたままだった。

 稀勢の里ら部屋の関取衆はこの日、通夜準備のため福岡から帰京。今日11日の告別式後、九州に戻る。明日12日は土俵祭が予定されるため、初日まで稽古にあてる時間は極めて少ない。だが、積み重ねてきた稽古は、体に染みついている。亡き師匠の思いをあらためて実感し、稀なる勢いを土俵にぶつけていく。【佐々木一郎】