<大相撲九州場所>◇5日目◇17日◇福岡国際センター

 大関挑戦中の関脇稀勢の里(25=鳴戸)に土がついた。西前頭筆頭の豪栄道(25=境川)にもろ差しを許し、外掛けで背中からバッタリ倒れた。今日6日目は全勝を守った関脇鶴竜(26)戦。これまでの連敗ぐせを克服し、再び白星街道を走りたい。

 稀勢の里は土俵を下りると同時に、小さく「くそ」とつぶやいた。悔しさを隠すように無表情で花道を引き揚げ、奥にあるモニターを確認。立ち合い部分だけを見て支度部屋に戻った。「敗因は立ち合いか」と聞かれ「うん、まあそうですね…」とポツリ。あとは「うーん」とうなったきり、言葉が出てこなかった。

 同学年の豪栄道には過去8勝1敗、最近5連勝と圧倒していた。ただ立ち合いの失敗は明白だった。豪栄道の左張りに脇が開き、右を差された。左おっつけで反撃も、もろ差しを許して万事休す。強引な小手投げを打った瞬間、技巧派の足技に屈した。場所直前に部屋を継承した新鳴戸親方(35=元前頭隆の鶴)は「本来の相撲が取れなかった」と弟子の胸中を代弁した。

 序盤を終えた。昇進目安は11勝。初黒星も、まだ数字上は余裕がある。ただ先場所は初日からの8連勝後に3連敗と急降下。「やっぱり負けた時に崩れ始めてきちゃう。自分でも分かるくらい固まってた」と語っていた。過去にも連敗ぐせが見られる。しかも今月7日に先代鳴戸親方(元横綱隆の里)が急逝。今場所からは心の支えだった師がいない。自分の道は、自分で切り開くしかないのだ。

 この日の観客数は3122人と今場所ワーストだった。場所を盛り上げるべき主役が敗れた瞬間、他の親方衆も思わずがっくり。集客面でも、稀勢の里には大きな期待がかかっている。今日6日目は好調の鶴竜と対戦。さまざまな意味で、注目の一番となる。

 先場所の連敗中、先代は言っていた。「しくじったら、また新しく始まると切り替えたらいい」。この日、新親方も「師匠に教えてもらった相撲を信じてやってほしい」と願うように語った。会場を去る稀勢の里は報道陣の質問に無言。ただ心に余裕があるのか、ファンが求めるサインには応じた。今こそ、成長した姿を見せる時だ。【大池和幸】