<大相撲九州場所>◇13日目◇25日◇福岡国際センター

 大関昇進を狙う稀勢の里(25=鳴戸)は、大関把瑠都(27=尾上)に敗れ、痛恨の4敗目。昇進の目安となる直近3場所33勝へ、ひとつも落とせなくなった。

 昇進分岐点の一番に敗れた稀勢の里は、さすがに意気消沈だった。「うーん、どうですかね」と繰り返すばかり。今場所中は負けても口を開いてきただけに、沈黙の長さが、ショックの大きさを物語っていた。

 把瑠都戦は最近5連敗中だった。その大半が組んでの力相撲。目先を変え、離れて取る選択肢もあったはず。「とにかく大きい相撲を取ることだ」。急逝した先代鳴戸親方(元横綱隆の里)のそんな言葉を思い出したのか、この日も左四つがっぷりに組んだ。ただ両まわしを強く引かれ、最後は体が伸びた。大きな相手に真っ向勝負で敗れた。

 賜杯の行方が横綱に傾いていた。残る注目の的は、協会の期待も背負っていた。広報部の玉ノ井親方(35=元大関栃東)から取組前の支度部屋で激励された。

 玉ノ井親方

 思い切り行け。攻めなきゃだめだ。

 稀勢の里

 ハイ、分かりました!

 日本人力士の優勝は06年初場所の同親方以降ない。そんな親方からの激励に、日本人ホープと呼ばれて久しい25歳は発奮したが、結果は出せなかった。

 芽はまだ残る。「優勝は決まったけど、まだ稀勢の里の大関どりの話題が残っている」と放駒理事長(元大関魁傑)。昇進を査定する審判部の中村副部長(元関脇富士桜)も「とにかくあと2日間、頑張ることだ」と、残りを連勝での昇進に含みを持たせた。今日14日目は新鋭の栃乃若戦。千秋楽はライバル琴奨菊戦が確実だ。新大関に勝てば審判部に強い印象を残せる。先代の死という悲しみを乗り越え、大関どりの重圧と闘ってきた。見えてきたゴールに喜びはあるのか。泣いても笑っても、あと2番だ。【大池和幸】