大相撲九州場所を10勝5敗で終え、大関昇進を確実にした関脇稀勢の里(25=鳴戸)が、千秋楽から一夜明けた28日、福岡市東区の鳴戸部屋で会見した。通例なら昇進の祝賀ムードに包まれるはずが、先代鳴戸親方(元横綱隆の里)の逝去などを配慮して厳粛な雰囲気。来場所の新大関にほとんど笑顔はなく、大言を吐かず、反省ばかり。「勝っても笑うな」との師匠の教えを、ここでも実行した。

 稀勢の里が柔和な顔を見せたのは、ほんの一瞬だった。「初の大関とりでチャンスをつかんだが?」との問いに「まあまあ」とほほ笑んだ程度。他は眉ひとつ動かさず、冒頭から淡々と激動の場所を振り返った。「今はホッとしている。平常心と、自分を信じることを先代から教えられていた。それを信じてやった」。

 場所直前の7日に急逝した、先代親方への感謝が続く。「今まで指導していただいた相撲を取ったことが、こういう結果になった。心が折れて結果が出なかったら(先代が)悲しむと思った」。先代には、心の中で昇進を伝えた。「一番早く報告したかった。まあ、昨日の相撲はだめだと言われたと思う」。千秋楽でライバルの新大関琴奨菊に完敗。「やっぱり、負けると悔しい」。それも無表情に拍車をかけた。

 今後に向けても、威勢のいい言葉は出ない。「(九州場所の)終盤は気持ちが守りに入った。自分の弱いところが出た。心の面も、体の面もまだまだ未熟。もっと鍛えていきたい。今場所のような相撲では優勝には絡めない。もっと厳しい相撲を取らないといけない。これからが大事です」。これからは勝って当然、負けて批判を浴びる立場に変わる。優勝争いも求められることを、十分に自覚しているようだ。

 先代が言っていた。「勝っても笑うな」。稀勢の里は昇進の喜びを胸に隠した。約1時間の会見中に「うれしい」という言葉は1度も口にしなかった。30日に昇進が正式決定する。伝達式の口上は「まだ考えてない」。目標の大関も「考えたことない」。決して浮かれた様子はない。これからも師匠の指導を思い出しながら、ひたすらに自分を磨いていく。【大池和幸】