<大相撲初場所>◇13日目◇20日◇東京・両国国技館

 大関把瑠都(27=尾上)が琴奨菊(27)を豪快な下手投げで破り、初日から13連勝で初優勝を決めた。結びの一番で横綱白鵬(26)が大関琴欧洲(28)に敗れ、2敗力士がいなくなった。把瑠都は外国出身力士としては9人目、エストニア出身では初の優勝。残り2日で全勝優勝を目指し、春場所(3月11日初日、大阪府立体育会館)では綱とりに挑む。白鵬は3連覇を逃した。

 東の支度部屋で白鵬の負けを見届けると、把瑠都の目が潤み始めた。帰り支度を整えていた矢先、初めての優勝が転がり込んできた。

 「あまり実感がない。ドキドキしてます。夢みたい。いい相撲も悪い相撲もあった。自分の中で頑張りました。人間やればできる」。声を詰まらせながら言葉を紡いだ。優勝への重圧も、取組後や朝稽古後には「ないよ」と言っていたが「プレッシャーをかけられていた」と素直な気持ちを吐露した。

 取組は前日のブーイングから一転、大歓声だった。琴奨菊に頭をつけられた。苦しい体勢にも慌てない姿が今場所の把瑠都を象徴していた。肩越しに右上手をつかむと、すかさず左下手を取る。つり上げて崩してから左の下手投げで決めた。この日の歓声に「ありがたい。とにかく自分のいい相撲を見せたかった」と感謝した。

 把瑠都は自分自身の取組VTRは、ほとんど見ない。「なんで負けたか分からない時だけ」と言う。だが把瑠都には忘れられない負けがある。大関昇進を確実にした10年春場所11日目に白鵬に負けた一番だ。結果的に14勝1敗だったが「あの日に勝てていれば優勝だった。1度でも経験できていればと思うことはある」。その記憶を払拭(ふっしょく)するためにも優勝したかった。

 今場所は序盤に崩れることなく13連勝。場所前からやれる手応えはあった。昨年末の後援者との忘年会。2次会である関係者から「把瑠都、そろそろ優勝しようや」と言われると「初場所は確実です」と即答した。その場にいた関係者は「これまで冗談でもそんなことを言ったことはなかったから。よほど手応えがあるのかと思った」と驚いた。有言実行で公約を果たした。

 昨年は八百長問題で尾上部屋の3力士が引退勧告処分、尾上親方(元小結浜ノ嶋)の飲酒運転事件、自らも技量審査場所での「遊びの場所」発言など問題を起こした。だが立て直しの先頭に立っているのも把瑠都だ。夜の尾上部屋での祝勝会には恒例のタイが間に合わなかった。水面下では関係者がお祝いの準備を進めていても、追いつかない優勝だった。

 白鵬も「横綱に最も近い」と評価するほどのポテンシャル。報道陣からもう1つ上があると問われると「ありますよね。残り2日、しっかりと自分の相撲を取りたい」。言い切る表情には達成感と決意がにじんだ。【高橋悟史】

 ◆把瑠都凱斗(ばると・かいと)

 1984年11月5日、エストニア生まれ。本名カイド・ホーヴェルソン。04年夏場所初土俵。10年夏場所で大関昇進。殊勲賞と技能賞を各1度、敢闘賞5度。柔道経験があり、03年エストニアのジュニア選手権優勝。199センチ、188キロ。血液型A。