<大相撲春場所>◇10日目◇20日◇大阪府立体育会館

 史上2人目の幕尻優勝の可能性がふくらんできた。モンゴル出身の東前頭16枚目・翔天狼(30=藤島)が、西前頭12枚目の富士東(24)を寄り切って1敗をキープした。大好きな米国のアクション俳優、スティーブン・セガールを参考にした相撲で3日目から8連勝。

 ハリウッドスターが乗り移ったかのような快進撃だ。翔天狼がこの日も勝った。富士東をもろ差しから寄り切り。「うまくもろ差しが入った。狙ってた」と笑いが止まらない。1敗を守り、白鵬らと並んで先頭争いを引っ張る。

 その秘訣(ひけつ)は、セガールにあった。「子供のころ、モンゴルにいるときから大好き」という翔天狼は、部屋で出演映画のDVDを見るのが何よりの楽しみ。有名な沈黙シリーズをはじめ、主な出演作は「全部見ている。速い動きがかっこいい」。さらに「相撲にも生かしてる」と研究材料にするほどだ。

 もちろん師匠の教えにも忠実。場所前は藤島親方(元大関武双山)から指導を受けた「1歩目を小さく、2歩目を大きく」という立ち合いをテーマに調整。「稽古場でも出足がよかった」と活躍の予感はあった。

 妻の愛情エールも励みだ。昨年7月30日に旭天鵬の妹ヒシゲスレンさんと結婚。「毎日10回以上電話している。ラブラブですね。大好きなんで」。2月の部屋のハワイ旅行がハネムーン。「ものすごく楽しかった」と、今場所へのエネルギーを蓄えた。6月9日には都内での披露宴が控えている。

 1年前の八百長問題の際には、メールに名前に出た中でただ1人の「シロ認定」を受けた。今も「名前が出たことが悔しい」と振り返る。昨年九州場所前に虫垂炎と腹膜炎で全休。手術後も2週間入院し、体重は10キロ減った。今年1月の初場所は東十両5枚目で8勝7敗ながら4度目の再入幕。「サプライズ」という番付運を生かしている。

 過去の幕尻Vは00年春場所の貴闘力だけ。外国出身力士なら史上初となる。「そんなの全然考えてないよ」と笑う。そして「セガールの新作、最近出てないの。早く出ないかな」と付け加えた。そんな飾らない男が、無欲で終盤の5日間を迎える。【大池和幸】

 ◆翔天狼大士(しょうてんろう・たいし)本名・ダグダンドルジ・ニャマスレン。1982年1月31日、モンゴル・ホブド生まれ。藤島部屋入門。01年春場所初土俵。09年春場所入幕。

 ◆幕尻(幕内番付最下位)優勝

 00年春場所で東前頭14枚目の貴闘力が6日目で優勝争いトップに。その後も白星を重ね初日から12連勝を飾った。13日目の横綱武蔵丸戦、14日目の横綱曙戦と連敗するも、千秋楽に関脇雅山を送り倒して13勝2敗。3敗の曙、武双山を抑えて史上初の幕尻Vを飾った。翔天狼は東16枚目で、優勝すれば戦後以降、最も番付が低い位置での優勝という珍記録となる。