<大相撲春場所>◇千秋楽◇25日◇大阪府立体育会館

 横綱白鵬(27=宮城野)が2場所ぶり優勝を、自身初の千秋楽逆転で決めた。1差リードしていた関脇鶴竜(26)が敗れ、2敗で並んだ優勝決定戦は執念の左上手投げ。苦しんで2年ぶり開催の春場所を制し、優勝回数を「22」に伸ばして元横綱貴乃花と並ぶ史上5位に浮上した。

 最後は充実の顔だった。白鵬が苦しんで22度目の優勝を決めた。過去21度、千秋楽を追いかける展開で迎えたことはなかった。「こういう優勝は初めてだから。正直、ここまで来るとは思わなかった。後半戦は長かったね。まあ、疲れた。ゆっくり休みたい。その二言に尽きるよ」。

 先に1敗の鶴竜が負けた。自力優勝が復活し、本割は把瑠都に快勝。決定戦は過去4勝4敗と分が悪かったが、得意の左上手をつかみ、最後は上手投げで覆いかぶさった。9日目に敗れたモンゴルの後輩に借りを返した。貴乃花の優勝回数に並び「先場所はできず、今場所もダメかと。並んだことであらためて偉大さ、すごさを感じた」。再び相撲の奥深さを学んだ。

 先場所は把瑠都に優勝を奪われ、綱のプライドが引き裂かれた。周囲には「今まで負けてない相手に負けた」。「自信がなくて踏み込めない」などと弱音を吐いた。さらに今場所6日目の嘉風戦で、現在もボルトが残る左足親指の痛みが再発。足首も痛めた。「古傷が悪化して、どうなるかと思った」。そんな時、かつて座禅を行った横浜・興禅寺の市川智彬住職から、場所直前にちょうだいした言葉が胸にしみた。「悔しさを味わうのも結構。悩み、考える時間をいただいたのはありがたいことです」。

 家族の愛情にも助けられた。13日目の稀勢の里戦に完敗。都内の自宅でテレビ観戦した妻紗代子さんが、着の身着のままで午後6時30分発の新幹線に乗り、大阪に来てくれた。妻は内緒だったが、白鵬はピンと来て電話をかけた。「大阪にいるでしょ」。宿舎で励ましを受けると、切れかかった緊張の糸が戻った。最後まで綱の役割を果たすと、最愛の人に伝えた。

 誕生日の初日が震災からちょうど1年、さらに2年ぶりの大阪という特別な場所。最後は主役の座を渡さなかった。横綱勝率は90%と歴代1位だが、ここ1年の後半戦は67%に落ちる。それでも10年春場所から1人横綱になって以来、2場所連続で優勝を逃していない勝負強さは健在。来場所は鶴竜の昇進で史上初6大関時代が到来。「いっそう取組も激しくなる。自分が引っ張っていきたい」と、これまで通りの強さを見せると誓った。【大池和幸】