新大関鶴竜(26=井筒)が、誕生した。日本相撲協会は28日、大阪府立体育会館で夏場所(5月6日初日、両国国技館)の番付編成会議と臨時理事会を開き、鶴竜の大関昇進を満場一致で決定。大阪・天王寺区の法岩寺で行われた伝達式で、鶴竜は「お客さま」の言葉を使い、観客あってこその大相撲を強調した。

 午前9時2分。雷理事(元前頭春日富士)と錣山親方(元関脇寺尾)を迎え入れた伝達式で、鶴竜は口上を述べた。

 「謹んでお受けします。これからも稽古に精進し、お客さまに喜んでもらえるような相撲が取れるよう努力します」

 簡潔ながら、鶴竜の思いが詰まっていた。力士は誰もが観客の存在を意識している。しかし、決意表明ともいえる口上で「お客さま」と言った力士は初めてだった。「相撲は見に来てくれるお客さんがいないと、やっていけない。1人でも多くのお客さんに来てもらって、いい相撲が取れるようにといつも思っています」と理由を説明した。

 口上は師匠に相談し、助言をもらって自分で決めた。井筒親方(元関脇逆鉾)は「シンプルでいかなきゃ駄目だよとは言いましたけどね。本人がほとんど考えました」と話した。錣山親方は兄の井筒親方、最後の弟弟子の鶴竜と対面し、口上を聞いた。「横綱から序ノ口まで、みんながそういう気持ちで相撲を取ってくれれば、いい相撲界になる」と好印象を口にした。

 不祥事の影響もあり、角界は観客減に苦しむ。力士は土俵で奮闘するしかない。春場所でファンによる敢闘精神評価のアンケートでは、15日間中6日は鶴竜が1位。「お客さんが、今日は来て良かったと思うような相撲を取りたい」という姿勢は、伝わってきた。

 「お客さまは神様です」と言ったのは、歌手の三波春夫。モンゴル出身の鶴竜は「それは聞いたことなかったですけど、お客さんがいないと成り立たないのは、相撲だけじゃないですよね」と話す。口上では「お客さん」でなく「お客さま」と意識的に使ったという。ファンにねだられたサインは、断ったことがない。表明した決意は、これからずっと貫いていく。【佐々木一郎】

 ◆大関昇進時の口上メモ

 初代貴ノ花、北の湖、若三杉、千代の富士は「一生懸命」という言葉を入れ、シンプルに述べてきた。四字熟語が話題になったのは、貴ノ花の「不撓不屈(ふとうふくつ)」から。若ノ花は「一意専心」、貴ノ浪は「勇往邁進(まいしん)」。近年では白鵬と日馬富士が「全身全霊」、琴光喜が「力戦奮闘」、琴奨菊が「万理一空」。昨年の九州場所後に昇進した稀勢の里は「大関の名を汚さぬよう精進します」とシンプルに言った。