<大相撲名古屋場所>◇10日目◇17日◇愛知県体育館

 角界の人気者、西十両6枚目の高見盛(36=東関)が、来場所の十両残留を濃厚にした。新十両の鬼嵐(30)を寄り倒して4勝目。幕下陥落なら引退の可能性もあったが、来場所も現役続行のめどが立った。

 得意の右四つで、高見盛が完勝した。相手は、今場所から十両に上がったばかりの鬼嵐。今場所最高の内容で、意味ある4勝目を挙げた。残り5日間を全敗しても、十両に残れる見通しが立った。「これで、残れる。相撲に残れる。まだ相撲が取れる」。表情は緩めなかったが、正直な実感を口にした。

 今場所は初日から3連敗。支度部屋の出口にある自動販売機では、負けると違うもの、勝つと同じものを買う。すがる思いで、験直しと験担ぎを繰り返した。前日は、運も味方した不戦勝。この日は、3日連続でカルピスウォーターを3口で飲み干し、11日目以降への活力にした。

 「少しは昨日で、体が楽になった。楽になって気が抜けそうになったけど、1回ケガしたらおしまいだから」。相撲界屈指の人気者も、昨年の名古屋場所を最後に、約10年間務めた幕内から十両に陥落。幕下まで落ちれば、引退する覚悟は決めてある。今場所中も「年だから」と弱気を口にすることもあったが、どうにか踏ん張った。

 青森県板柳町でりんご農園と青果店を営む母・加藤寿子さん(63)は「心配してました。『負けても好きなんです』と言ってくれる人もいるけど、何て返事していいか分からなくて…」と言葉を詰まらせた。地元の後援会は1年おきに初場所の応援ツアーを組んでおり、次回は来年1月。母は「プラス思考で考えたい」と生観戦に思いをはせた。高見盛は「暑さとかできつくなる。それでもやんなきゃ」と言った。戦いはまだ、終わらせない。【佐々木一郎】