<大相撲九州場所>◇6日目◇16日◇福岡国際センター

 東前頭10枚目の勢(いきおい、26=伊勢ノ海)が、同7枚目の臥牙丸(25)を破り、1敗を守った。歌が上手で、角界屈指の演歌好き。自慢ののどを攻められたが耐え忍んで、初の幕内勝ち越しへ、1歩前進した。

 強烈なのど輪を受けた。勢は、体をのけぞらせた。相手の臥牙丸は212キロの体重をかけてくる。息がつまりそうになったが、のどは鍛えられていた。攻めをしのいで、右前まわしを引くと、頭をつけて寄り切った。初顔合わせを制し、5勝1敗。しこ名の通り、勢いは止めなかった。

 こぶしも回せる自慢ののどは、大丈夫だったのか。「声がかすれて、いい味の声になるかも…。いや、大丈夫です」と冗談も交えた。過去2度の幕内は負け越し、今回が3度目の挑戦。「雰囲気も慣れてきた。1回目より2回目、2回目より3回目。何回もやってると、体も慣れてきます」と手応えを口にした。

 実家は、大阪のすし店。宴会場があり、客のカラオケや店の有線で演歌に親しんできた。3歳の時はすでにマイクを握っていた。父とともに、山本譲二のファン。「小学生の時はもう演歌を歌ってました。十八番はいっぱいあります。譲二さんの『みちのくひとり旅』、鳥羽一郎さんの『山陽道』、山川豊さんの『アメリカ橋』…」。

 演歌の心を励みにしてきた。本場所入りする前、1人で音楽を聴く。「寂しい歌が好きなんです。暗い歌を聴くと、逆にやる気が出る。頑張ったるわって。だから演歌が好きなんですよ」。山川、鳥羽らにコンサートの楽屋で激励されるなど、演歌界からも応援される存在になってきた。

 関取ながら、巡業で相撲甚句を歌う。宴席に欠かせない存在だが、本場所の土俵でも観客を沸かせる幕内力士になってきた。「止まらずに、自分から仕掛けていけてるのが、いい流れを呼び込んでいると思います」。日本の心を知る力士らしく「ありがとうございました。お世話さまでした」と言って、報道陣の輪から帰路に就いた。【佐々木一郎】

 ◆力士と歌

 のど自慢の力士は多く、レコードデビューも珍しくない。三保ケ関親方(元大関増位山)は7月に松居直美とのデュエット曲「秘そやかに華やかに」をリリースしたばかり。77年に発売した「そんな女のひとりごと」は130万枚を売り上げた。ほかにも放駒親方(元大関魁傑)尾車親方(元大関琴風)らもレコードを出している。勢も大至プロデュースのアルバム「相撲甚句レジェンド2」で美声を披露している。