珍手を駆使して、角界の体格基準を突破する新弟子が現れた。日本相撲協会は26日、東京・両国国技館で初場所(来年1月13日初日、両国国技館)の新弟子検査を実施し、16人が受検。日ごろは身長160センチの伊藤爆羅騎(いとう・ばらき、18=式秀)は髪を3カ月間伸ばし、背伸びをして体格基準(身長167センチ、体重67キロ)をクリア。頭にシリコンを入れて受検した舞の海のような個性派が登場した。なお受検者16人は体格検査をパスした。

 ひときわ背の低い伊藤が、16人中14番目に身長計に乗った。胸を張り、グッと力を入れると数センチ背が伸びた。背伸びをしたように見えた。検査担当の玉ノ井親方(元大関栃東)は「167」と身長を読み上げる。基準ギリギリ。報道陣から笑いが漏れたが、本人は表情を変えずに胸を張った。

 体重は104キロで文句なし。握力、背筋力、視力、肺活量、内臓などの検査を終えた伊藤は「うれしいです。奇跡…」とほおを緩めた。日ごろは、160センチしかない18歳。角界入りへの情熱で、あの手この手を繰り出した。

 丸刈りだった頭髪は、3カ月伸ばした。床山に通常の2倍のびん付け油を使ってもらい、毛を逆立てた。来年1月4日付で式秀部屋を継承する小野川親方(元幕内北桜)には前夜、身長が伸びるマッサージを受けた。検査開始ギリギリまで、親方の車の後部座席で横になり、体が縮まないようにした。身長計に乗ってからの動きについては「緊張してて…」とし、背伸びは「してないです」。仮に不合格でも、まげを結って何度でも受検する覚悟だったという。

 兄は、立浪部屋の三段目羅王丸(19、本名・伊藤羅王)。爆羅騎という珍しい名前は、マフィアを描いたイタリアとフランスの合作映画「バラキ」を気に入った父雅浩さんに付けられた。巨漢を倒す舞の海にあこがれ、小3から相撲を始めた。福岡・希望が丘高で、今年の高校総体個人32強、団体3位という実力者だ。

 小野川親方は、しこ名について「『爆羅騎元気』でいこうかな。『元気』でなく『源氣』でもいい。『秀樹感激』みたいな、響きがいいじゃないですか」とノリノリ。部屋の所在地は茨城県だけに「爆羅騎くんは、茨城で頑張ります。バーモントカレーから懸賞金をいただけるようになったらいいな。頑張らせますので、よろしくお願いします」とあいさつした。合格者は内臓検査の結果を受け、初場所初日に発表される。【佐々木一郎】

 ◆新弟子検査

 力士志望者を対象に、本場所前に実施。合格すれば、日本相撲協会の力士として認められる。検査は体格検査(身長167センチ以上、体重67キロ以上。春場所の検査は、中卒見込みの者に限り165センチ以上に緩和)と内臓検査がある。今年の春場所まで体格基準は173センチ以上、75キロ以上だったため、基準に満たない者は第2検査(167センチ以上、67キロ以上とする体格検査と体力検査)を受けていた。第2検査出身の関取は豊ノ島、磋牙司、益荒海、鳰の湖の4人。受検者は年々、減少傾向にあり、今年は合計56人。年6場所制が定着した58年以降で最少だった昨年の60人を下回った。

 ◆伊藤爆羅騎(いとう・ばらき)1994年(平6)5月10日、埼玉県生まれ。小3から相撲を始め、中3まで4年間は柔道も経験。福岡・希望が丘高へ相撲留学し、今年の高校総体は個人32強、団体3位。3月の高知大会は個人16強、団体3位。家族は父雅浩さん、フィリピン人の母ロレナさん、兄羅王は立浪部屋の力士。167センチ、104キロ。