<大相撲春場所>◇4日目◇13日◇大阪・ボディメーカーコロシアム

 角界屈指の個性派が、初金星を挙げた。東前頭2枚目の千代大龍(24=九重)が、横綱日馬富士(28)を引き落としで破った。横綱初挑戦での初勝利は、02年名古屋場所の霜鳥以来11年ぶり。入門から12場所目で、まだ大銀杏(おおいちょう)が結えない元学生横綱が、春場所を荒らし始めた。

 必殺の形が出た。千代大龍が左からかち上げ、間髪入れずに引き落とし。日馬富士に両手をばったりつかせると、両腕がガッツポーズを作りかけた。「うれしかった。勝っちゃった」。結びの一番は、勝ち残りの控えで見た。「気付いたら白鵬関が終わってました」。放心状態だった。

 迷いはなかった。日体大時代、体重150キロで跳び箱15段を跳んだほどの瞬発力を生かし、かち上げから勝機を見いだす。「僕は、その相撲で上がってきた。これ一本でいく」。昨年、1勝当たりに要した勝負時間は幕内最速の5秒59。この日も1秒3で片付けた。

 師匠の九重親方(元横綱千代の富士)は言う。「当たりに爆発力があるから、はたきが効く。これで甘えちゃだめ。8番勝って、三賞を取らないと」と期待した。横綱初挑戦での初金星は、平成以降9人目。出世に髪の伸びが追いつかず、ちょんまげのまま角界の最高位を破ってみせた。

 昨年4月の福井・小浜巡業で日馬富士にぶつかり稽古でかわいがられ、途中帰京。新入幕を直前にして、右足関節剥離骨折の診断を受けた。あれから約1年。鍛えてくれた相手に金星で恩を返した。

 今場所前、自己最高位の番付に対し「99%の才能と1%の努力でやってきた」と豪語した。稽古嫌いを自任する一方、努力もしてきた。昨年8月に糖尿病が判明し、一時は体重が160キロ台から20キロ以上落ちた。カルピスを原液で飲む甘党が、砂糖を断った。母の明月院夏美さん(45)は「子供のような甘いミルクコーヒーが好きだったのに、ブラックを飲むようになって驚いた」と証言した。

 引いたり、はたいたりの相撲は、一部ネット上で「明月院スペシャル」とやゆされるが、本人は意に介さず「MSPです」と笑い飛ばす。上位陣にとってやっかいな豪傑が、暴れだした。【佐々木一郎】