<大相撲夏場所>◇4日目◇15日◇東京・両国国技館

 大関琴奨菊(29=佐渡ケ嶽)が、東前頭3枚目の宝富士(26=伊勢ケ浜)を一気に寄り切った。最近は左膝痛や婚約解消で心身ともに傷を負い、3場所連続8勝止まりだったが、今場所は1年ぶりに初日から4連勝。死と直面しながら戦う元F1ドライバーの山本左近(30)から精神面の強さを学んで復調気配だ。ほかの3大関も勝ち、4大関の初日から4連勝は90年夏場所以来23年ぶりとなった。

 まさに、電車道だった。わずか2秒0。右を差した琴奨菊が、一気に寄り切った。敗れた宝富士が「何もできなかった」と嘆いた速攻で、昨年夏場所以来の初日から4連勝を決めた。

 「良かったです。いい相撲を取れた」。胸を張った最大の理由は、頭で描いた相撲を土俵で実現できたからだ。本来は左四つが武器だが、攻め幅を広げるため右四つにも取り組む。佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)の指導で、脇を開かず右腕を差し込む稽古を春場所から繰り返した成果が出た。この日は師匠の45回目の誕生日。「店で一番大きなケーキ」を発注していた琴奨菊は「一番は勝利を届けることですからね。良かったです」とほおを緩めた。

 昨秋痛めた左膝に加え、今年2月には婚約解消を発表。心身ともに傷つき最近3場所は8勝しかできなかったが、ようやく挫折を乗り越えつつある。きっかけは、元F1レーサー山本左近との出会いだった。今年に入って知人を通じ会食。手元が狂えば死も待ち受ける世界で戦う男の話は、刺激的だった。「レーサーは気を抜いた瞬間、死んでしまう。どれだけのメンタルで戦っているかを聞いたら、自分らのけがなんてたいしたことじゃない。もっともっと稽古しないと」。厳しい稽古を積んで出世した大関でも、まだまだ甘いと考え直し、挫折に負けない強い心も取り戻した。

 後続の3大関もそろって勝ち、4大関が初日から4連勝。23年ぶりの“珍事”にも「他の人のことはまったく気にならない」とサラリ。「やりたいことをやって負ければ稽古不足。やるべきことをやらずに負ければ気持ちの負けで、それほど悔しいものはないんです」。最後まで強い意志を持ち、やるべきことを貫く覚悟だ。【木村有三】