<大相撲夏場所>◇9日目◇20日◇東京・両国国技館

 1つの殻を破った。大関稀勢の里(26=鳴戸)が西前頭4枚目の豊ノ島(29)を押し出し、自身初となる無傷の9連勝を飾った。大関鶴竜(27)が大関琴奨菊(29)に敗れたため、全勝は横綱白鵬(28)と2人だけ。周囲の期待も高まり、地元茨城・牛久市の後援会では、優勝を果たせば市民と喜び合うパレードの計画案も浮上した。今日10日目は、苦手とする大関琴欧洲(30)と対戦する。

 感慨はみじんもなかった。それが、今までとは違う証しだった。過去に2度、はね返されてきた9日目の壁を突破した。割れんばかりの歓声が、稀勢の里に送られる。だが、乱れた息を整えながら、涼しい顔でこう言った。「今日で終わりだったら良いけど、ね」。まだ何も得ていない。そのことは、誰よりも本人が一番よく分かっていた。

 合口のいい豊ノ島に、もろ差しを許しかけた。だが、左からの小手投げで体勢を崩すと、すかさず得意の左四つに。ここから「冷静に行こうと思った」と、慌てることなく我慢した。勝機を待つこと、実に40秒9。今場所1番の時間をかけて、9日目の壁を取り除いた。

 直前の取組で、同じく自身初の9連勝を狙った鶴竜が敗れた。そんな嫌な流れは、冷静な心で断ち切った。今までと違う姿に、周囲の期待も高まり始めた。地元牛久市の後援会関係者は「騒ぐのはまだ早い」としながらも「優勝すれば市民と喜び合う場面をつくりたい。市内で優勝パレードする話も考える」と言う。11日目まで2差をつけながら逆転された昨年夏場所。そこで実現しなかった「夢」が、にわかに動き始めた。

 秋場所後の10月14日には茨城・土浦市内で3年ぶりに「土浦・牛久市巡業」も開かれる。水戸市で行われた4月の巡業では、本割以上に喝采を浴びて「茨城から横綱になれ!」とのかけ声も飛んだ。地元で「横綱土俵入り」の勇姿を見せるには、少なくとも今場所で優勝争いに絡まなくてはならない。地元へ恩を返せる機会がめぐってきた。

 今日10日目は3連敗中の琴欧洲戦。大関戦が始まる。全勝街道にも挑戦者の心は失っていない。横綱との並走に「なんとか粘っていきたい。最後まで行きたいですね。焦る必要も、気負う必要もないですから」と答えた。今の稀勢の里は、心のゆとりが違う。【今村健人】