<大相撲夏場所>◇12日目◇23日◇東京・両国国技館
最大の関門を、完璧な相撲で突破した。初優勝を目指す大関稀勢の里(26=鳴戸)が、横綱日馬富士(29)を寄り切って全勝を守った。過去16勝26敗の相手に鋭い出足で何もさせず、無傷の12連勝で、先場所からの連勝も15に伸ばした。横綱白鵬(28)も大関鶴竜(27)を寄り切って全勝。優勝争いは、ほぼ両者にしぼられた。
今場所、初めてだった。並走する白鵬が勝った後で土俵に上がった。相撲は土俵下で見届けた。結びの一番で挑む相手は、こちらも横綱の日馬富士。幾重にもふりそそぐ重圧に、稀勢の里は打ち勝った。それも完璧な相撲で。「体は動いていますね」。その証しが、立ち合いの鋭さだった。
反応速度が自慢の相手の、さらに上を行った。両者がぶつかったのは、日馬富士寄りの位置。右を差すと左もねじこみ、もろ差しで一気に寄った。土俵を割らせても力を緩めない。最後はだめ押しに近い突きで、観客席まで転がした。「思い切って行こうと思った。ああいう形になって良かった」。大きく息をついた。
会心の一番。そこに至ったのは「悔しさ」だった。独走しながら4日間で3敗した1年前の夏場所-だけではない。強く心を貫いたのは先場所の方だった。9日目まで白星と黒星が交互に続いた。最後の3連勝で何とか2ケタに届いたが、心底情けなくなった。変わりたい-。そう決心した場所前、陸上練習などでよく用いるラダー(はしご)を手に入れた。黙々と前後左右にステップを踏む。動き方は自分で調べた。「攻めの仕切り」も同じだった。「1年前だけじゃない。いろいろなことがあって、今がある」。そう強調した。
昨年夏場所は追われる重圧に敗れた。だが、今は落ち着きが違う。仕切りの際、頭に血が上ると目を盛んにパチパチさせるクセは、まるで出ない。顔を真っ赤にさせて顔や体を激しくたたくしぐさもない。取組の2番前。192キロの碧山と156キロの琴欧洲が飛んできて、物の見事に押しつぶされた。だが「危なかったですけど、リラックスできましたね」と笑って振り返った。苦い経験が今、血肉となっている。
優勝争いは白鵬とほぼ2人に絞られた。今日13日目は鶴竜戦。そして14日目には恐らく、直接対決が組まれる。「1日1日、一生懸命やるだけです」。初日から貫く言葉が、重みを増してきた。【今村健人】

