<大相撲名古屋場所>◇9日目◇15日◇愛知県体育館

 大関琴欧洲(30=佐渡ケ嶽)が、東前頭3枚目の千代大龍(24=九重)を寄り切って1敗を守った。9日目での勝ち越しは、11年初場所以来14場所ぶり。右膝や右肘の故障で不振続きだったが、久々にV経験大関の存在感を示した。史上2位のブランク優勝となる30場所ぶりの賜杯を目指す。

 迷いがなかった。琴欧洲は立ち合いで鋭く踏み込むと、頭が千代大龍のあごに食い込んだ。出足を止め、すかさず右上手をつかむ。投げで体勢を崩して、一気に寄り切った。「体が動いているので、考え過ぎずにいきました」。1横綱1大関を撃破していた相手に完勝し、1敗をキープ。9日目での勝ち越しは11年初場所以来14場所ぶりだ。

 久々に存在感を発揮している。右膝や右肩、肘の故障もあり、この1年で2度も途中休場した。通算6度目のかど番だった先場所は、千秋楽にようやく8勝目を挙げたほど苦しかった。「あの経験は、何年分かの稽古と同じくらい。きつかった」。精神的に楽になった今場所は、名古屋入りした6月末に稽古で右まぶたを切り8針縫うアクシデントもあったが、既に傷口はふさがった。験を担いで抜糸せず戦う姿も勇ましい。

 現4大関で“最古参”の意地もある。先場所は同じ02年に初土俵を踏んだ稀勢の里が優勝争いし、今場所前は綱とりでも注目された。04年夏場所の新十両昇進は同じだったが、新入幕、新三役、大関昇進は常に琴欧洲の方が先だった。「稀勢の里だけじゃないよ。誰にも負けたくない」。ライバルの活躍で、自身の闘争心もよみがえってきた。

 1差で白鵬を追う展開。逆転優勝なら08年夏以来で30場所ぶり、史上2位のブランクVになる。同1位43場所ぶりVの記録を持つ部屋付きの秀ノ山親方(元関脇琴錦)は「落ち着いているね。どんと来いって感じで、受け止めている。貴乃花親方も『いいですね』と言ってました」と目を細める。

 久々の優勝争いに琴欧洲は「横綱戦まで1敗でいったら意識するけど、今は意識してもしょうがないよ」とまだリラックスムード。うなぎでスタミナ補給し、毎日大好きなスイカも食べている。それでも愛知は、麻子夫人の故郷で応援も多い。復活の地には、ふさわしい。【木村有三】

 ◆08年夏場所の琴欧洲の初優勝VTR

 春場所で途中休場し、夏場所は2度目のかど番で迎えた。だが、初日から白星を積み重ねて10日目で単独トップに立った。11日目に朝青龍、12日目には白鵬と、両横綱をともに寄り切り、初日から12連勝。13日目で平幕安美錦に敗れたが、14日目に関脇安馬(現日馬富士)を破り、欧州出身力士として初めて、外国人としては7人目の優勝を飾った。かど番での優勝も史上7度目。千秋楽も勝って14勝1敗だった。