<大相撲秋場所>◇14日目◇28日◇東京・両国国技館

 横綱白鵬(28=宮城野)が、唯一の3敗だった大関稀勢の里(27)をはたき込みで破り、4場所連続27度目の優勝を決めた。4連覇は2度目で5人目。千秋楽を待たずの優勝も14度目で、朝青龍に並ぶ史上2位となった。取組中に激しく頭同士がぶつかり、左目上を約2センチ切り流血。勝ち名乗りを受けてからの物言いなど、記憶に残る一番となった。

 白鵬が稀勢の里を土俵中央にたたきつけた。はたき込みで27度目の優勝を決めた。小さく拳を握り、勝ち名乗りを受けた。両手で19本の懸賞を拝み受けた。館内に白鵬コールが起きた瞬間、土俵下で審判を務める井筒親方(元関脇逆鉾)が手を挙げた。物言い。優勝決定の取組では極めて異例だ。はたいた際にまげをつかんだ「反則」を疑われた。1分20秒の審議。「もしかしたら大銀杏(おおいちょう)に指がかかったのかなと。でも深く入った感覚はなかった。軍配通りで良かった」。朝日山審判長(元大関大受)も「ビデオ室と連絡を取りながら引っ張っていない結論になった」と説明。白鵬は大きく息を吐き、右の拳を再度突き上げた。そして2度目の勝ち名乗り。同じように懸賞を拝み受けた。

 左目上が赤かった。館内もあまりの形相に騒然となった。左眉が縦に3センチ、パックリと切れていた。血が流れた。土俵を下りて右手首に巻くテープでぬぐうと自身の表情もこわばったほどだった。立ち合ってすぐに左四つ右上手。上手を自ら放して強引な左からのすくい投げ。再度組み合った時に頭と頭が激突し割れた。勝ち残りの土俵下で瞬く間に腫れた。紫色のタオルに氷を挟み、冷やし続けた。支度部屋では「男前が台無しになっちゃった。勝利の勲章です」。今場所一番の笑顔に変わった。

 国技館内の診療所に直行し、診察を受けた。「テープで貼っただけ。そんなに深くなかったみたい」と安堵(あんど)の表情で祝勝会場に向かった。担当医師も「(深さは)3、4ミリなので。ぶつかれば出血しますけど、相撲には影響ない」とした。

 仕切りから気迫は違った。名古屋場所で優勝も、稀勢の里に負けたことは唯一、悔いが残った。にらみ合い。行司の待ったなしの声がかかったあとの駆け引き。大一番に備え、2日間、朝稽古で報道陣を閉め出し集中力を高めた。「力がついているのは事実。数場所優勝争いをしているのも事実。やりがいがある。実力者に勝って優勝というのは満足です」。

 4場所連続27度目の優勝は、14度目の14日目までの決定。「勝ち続けることは大変。4連覇2回というのが達成感がある」。またも力の差を見せつけた秋となった。【鎌田直秀】<主な優勝決定の物言い>

 ◆83年夏場所千秋楽

 勝てば優勝の関脇北天佑と関脇出羽の花の一番。北天佑が寄りたてたが「勇み足」ではないかと物言い。北天佑の足が出るのと出羽の花の体が崩れるのが同時として取り直し。最後は北天佑が左に変化して初優勝と大関昇進を飾った。

 ◆94年初場所千秋楽

 大関貴ノ花と関脇武蔵丸の一番。貴ノ花が寄り倒されたかに見えたが、武蔵丸の右足が一瞬早く土俵を割っており、軍配は貴ノ花。3分以上に及ぶ物言いの末、審判団全員一致で軍配通りの裁定。55年5月に決まり手が68手(現82手)に制定後、勇み足で優勝決定は史上初。

 ◆99年初場所千秋楽

 関脇千代大海と横綱若乃花の優勝決定戦で千代大海が頭から、若乃花が後ろ向きで同時に土俵外へ飛び出した。軍配は若乃花に上がったが、物言いの末に取り直し。最後は千代大海が寄り倒して逆転で初優勝を決めた。