<大相撲秋場所>◇9日目◇22日◇東京・両国国技館

 西前頭3枚目の嘉風(32=尾車)が、全勝だった横綱鶴竜(29)を押し出しで破り、金星を挙げた。今場所は2横綱2大関に勝ち、鋭い動きや相撲を読む力は健在。今日10日目には平幕唯一1敗の逸ノ城(21)の挑戦を受ける。

 嘉風の計算通りの金星だった。「いやあ、うれしい。力士やってて良かった。もう1回リプレーやってくれないかな」。何度も見返したい会心の勝利。はたいてくるタイミングを予知していた鋭い出足で押し出し。「名古屋の初金星もうれしかったけれど、(今までの)一番かなあ」。最年長初金星だった先場所の日馬富士戦とは違う、結びの金星。座布団も激しく舞った。「2個目の金星獲得」も最高齢更新だ。

 全勝鶴竜の心理を読み切った結果だった。「根拠のない仮説ですけれど、横綱が昨日の突き落としで勝った一番で変な顔をしていた」。消極的な相撲を指摘され続け、勝ち越しを決めたことで横綱らしい勝ち方にこだわってくる。前に出て勝ちたい横綱の気持ち。そこを突いた。「頭を上げすぎず下げすぎず。そういう姿勢で耐えられれば、迷って引いたところを突ける。やっぱり、ちょっと中途半端なはたきだったと思います。来たっ、て感じでした」。

 2回の待ったは「自分がちょっと早まりました。いただけません」。勝負が決まった場面も「ヨシッて顔になってしまった。それもダメ。相手に敬意を表すのが相撲ですから」と、反省の弁も的確で速い。

 今場所は日馬富士のまげつかみ反則による白星など、2横綱2大関を倒した。NHKのインタビューも4度目。「早く勝ち越してまた来たい」。今日10日目は平幕唯一1敗の逸ノ城との対戦と伝え聞くと「まさか、怪物ですか」とニヤリ。「ザンバラに勝っても(インタビューは)行かない」と意地もある。快進撃の若者をどう手玉に取るのか。嘉風がまた、精巧な仮説を立てて「怪物退治」に臨む。【鎌田直秀】