<大相撲秋場所>◇10日目◇23日◇東京・両国国技館

 新入幕で快進撃を続ける東前頭10枚目の逸ノ城(21=湊)が、2横綱2大関を破った西前頭3枚目の嘉風(32)をはたき込んで9勝目を挙げた。今日11日目は大関稀勢の里に初挑戦する。新入幕の大関戦は07年秋場所の豪栄道以来7年ぶりで、勝てば00年夏場所の栃乃花以来14年ぶり。初土俵から5場所目での大関戦は99年春場所の雅山に並ぶ史上最速タイで、白星なら長岡(のちの朝潮)の6場所を抜く最速勝利となる。

 細い目の逸ノ城が、さらに目を細めて笑った。「立ち合いが良かった。最初から一発、思い切りいってやろうと思った。引いちゃったけれど自分の体の方にじゃなかったので大丈夫」。右肩を相手の体に低くぶち当てた。狙った左上手が取れなくても、突っ張りを顔面に受けても冷静。動きの鋭い嘉風をはたき込んだ。

 192センチ、199キロ。太もも92センチの巨体とバランス感覚はモンゴルで遊牧生活を送った少年期に礎がある。来日後の驚きは蛇口をひねれば水が出ること。遊牧民の家屋ゲルから約500メートル離れた川から水をくみ、10リットルバケツ2個を運ぶのが日課。途中で石などにぶつけて水をこぼすと戻ってくみ直し。「涙が出そうでしたけれど、お母さんに怒られるから」。大自然の中で、諦めず、黙々と努力する姿勢を身に付けた。

 今日11日目は大関稀勢の里戦。「うれしいっす。思いきっていきます」。勝ち越しの目標は「10番勝ちたい」に変更。「三賞も目標?」と問われると「三賞って何ですか?

 どうするともらえるの?」。教習所を卒業したばかりのザンバラ男は無欲で上位に挑む。

 井筒審判部長(元関脇逆鉾)は「明後日も(12日目)大関(との対戦に)になるかも」と話すなど、上位と当たる可能性が高い。1差で追う優勝争いには「いやあ、全然です」と謙遜したが、「ストップ白鵬」の期待も高まってきた。新入幕の優勝は1914年(大3)5月場所の両国だけ。100年ぶり快挙は少々気が早いが、どこまで上位に通用するのか。ファンも逸ノ城自身も心が躍る。【鎌田直秀】

 逸ノ城に敗れた嘉風のコメント

 今日は何もありません。はたかれたところについていかないとダメ。相手の強さを認めます。怪物だったってことです。