<大相撲九州場所>◇14日目◇22日◇福岡・福岡国際センター

 横綱白鵬(29=宮城野)が、大鵬に並ぶ史上最多32度目の優勝へ王手をかけた。日馬富士(30)を送り出し、13勝1敗で単独首位をキープ。“日本の父”と慕った亡き恩師に並ぶ偉業へ、琴奨菊(30)を退けて2敗を守った鶴竜(29)と、今日の千秋楽結びの一番で直接対決する。

 白鵬の口元が、わずかに緩んだ。日馬富士の強烈な突きを浴びたが、その右腕を手繰って後ろに回り込みあっさり送り出した。「タイミング良かった」。抜群の反応で横綱対決を制し、満足げに場内を見渡した。

 土俵下で見届けた直後の一番で鶴竜が勝ち、優勝の行方は千秋楽に持ち越しになった。「ああだこうだ考えたらキリがない」と平常心を保つも、偉業へ王手をかけたのは確か。いよいよ日本の父と慕っていた大鵬の32度目優勝へ、並ぶ時がやってきた。

 横綱に昇進した07年。元横綱大鵬の納谷幸喜氏から「横綱は勝って当たり前、勝てなくなったら引退しかないんだ」と言われた。だからこそ、他の力士より頭も体も使い、強くあり続けるための工夫をしてきた。3年前からは朝日を浴びることを習慣づけ、細胞を活性化させた。稽古場でも太陽の光が届く位置に座り、股割りを始める。指導を仰ぐ杏林予防医学研究所の山田豊文所長は「20代後半でも反応の速さを維持するには、朝日の中での運動が大事」という。教えを守る白鵬の体は肌つや抜群だ。

 九州での大記録挑戦には因縁もある。4年前、敬愛する双葉山の69連勝を目指しながら、2日目に敗れて63で連勝は途絶えた。その時、相談した相手も納谷氏だった。「記録は破られるためにある。やってほしい」と背中を押されていた。期待に応えられなかったが、4年の月日が流れて新たなチャンスが訪れた。

 今度は大鵬自身が持っていた大記録。だが、昨年1月に天に召された恩師はいない。それでも、白鵬は言う。「天国から『お前ならやってくれる』と。そういう感じで見てくれてるのかなと思う。天皇賜杯を抱いた姿を見せられるといいのかな」。鶴竜との決戦を制し、最高の恩返しで1年を締めくくる。【木村有三】