白鵬が願う次の物語は、大鵬の孫との結び-。九州場所で大鵬に並ぶ史上最多32度目の優勝を果たした横綱白鵬(29=宮城野)は一夜明けた24日、福岡市内で会見した。次の目標については明言を避けたものの、夢の一端を披露。元横綱大鵬の故納谷幸喜氏の孫たちが相撲に取り組んでいることから将来、結びの一番で対戦することを望んだ。

 「眠たいです」と笑いながら始まった会見。だが、白鵬は25分間、思いの丈を語った。鉄板焼き店の最後にガーリックライスを食べたときの会話、亡くなる2日前に会えたこと…。気を抜けば、納谷氏との思い出に心が引き込まれる。「いや、まだ泣いちゃだめだ」と言い聞かせる場面も。あらためて「この優勝は特別です」と感慨に浸った。

 「運は努力した人間にしか来ない。でも、1つの努力じゃ、ある程度までしか行かない。たくさん努力があってこそ頂点に立つ」

 数多くの努力で大鵬に肩を並べた。次は-。だが、さすがに新たな目標を答えるには早すぎる。無邪気に笑うだけで言葉を控えた。ただ、1つだけ、夢を語った。「大鵬さんのお孫さんが相撲をしている。角界に入門して結びで相撲を取ることを…。早ければ4、5年後かな。そういったドラマがあれば、悔いのないことかもしれませんね」。

 埼玉栄高2年の幸林(たかもり)ら4人の孫が今、相撲を取る。父貴ノ花に引退を決意させたとされるのが80年九州場所3日目の千代の富士。10年半後、千代の富士を引退に追い込んだのが、子の貴乃花だったような巡り合わせが起こるのか。そんなドラマを、ひそかに待ち望んでいた。

 会見後、福岡市内の児童支援施設を訪れて、地域の老若男女と触れ合った。腕相撲に参加すると、お年寄りが大喜びしてくれた。その姿が「角界の父」と重なった。しみじみと言った。「大鵬親方が生きているときに、記録を見せてあげたかった」。だからこそ、孫へ伝えたい。白鵬の物語はまだ、続いていく。【今村健人】

 ◆角界入り後、横綱と結びを取るまで

 元横綱大鵬の納谷氏の孫で埼玉栄高2年の幸林は、早ければ再来年にも角界入りする。16年春場所で初土俵を踏むと仮定し、最速で昇進を果たしていけば17年春場所にも新十両。さらに勝ち進めば17年中にも横綱と対戦できる。ただ、現実はそこまで甘くない。たとえば稀勢の里、豪栄道は幕内昇進まで2年半。白鵬は3年を費やし、鶴竜は5年かかった。それでも約650人の力士のうち、幕内は42人だけ。入幕できない力士の方が多い。狭き門だ。