横綱白鵬に超えられるまで史上最多32回の優勝を誇った元横綱大鵬の故納谷幸喜氏の芳子夫人(67)が、審判部の勝負判定を批判した白鵬の発言を悔やんだ。29日、東京・江東区の深川北スポーツセンターに飾る大鵬の優勝額除幕式に出席。判定に一切の不満を漏らさなかった大鵬さんに思いをはせた。

 白鵬発言について、報道陣から聞かれた芳子夫人は慎重に言った。「お父さん(大鵬)も前から言っているように、横綱として自分のことだけじゃなく、ただ勝つだけでなく、相撲界のことを考えて頑張ってほしい」。審判批判を聞いた時は「なんでそんなことを言っちゃったんだろう…」と残念な気持ちも入り交じったという。

 1969年(昭44)春場所2日目、大鵬の連勝は誤審によって「45」で止まった。戸田の右足が土俵を割っていたが、行司差し違いで負けとされた。芳子夫人は、当時のことをはっきりと覚えている。

 「テレビで見ていた私たちは悔しかったんです。宿舎で帰りを待って『お疲れさま。絶対勝ってたのに…』と言ったら『そうなんだよ』とは言いませんでした。『そういう風に見られる相撲を取ったのが悪いんだ』と言ってました。逆に私たちが励まされました」

 身内にさえ愚痴をこぼさず、際どい相撲を取った自分を責めた。大横綱のすごみを敗戦からも示した。

 芳子夫人は「主人なら『前から(横綱の自覚を持てと)言っているだろう』と言ったと思う」と指摘した。白鵬はどうすべきか?

 芳子夫人は「私が言うことではありません」と前置きして続けた。「お父さんは、そういう(審判批判の)発言はしない。もししてしまったら、自分で謝りに行くと思います」。かねて白鵬が「角界の父」と慕った大鵬さんは今、天国で何を思うだろう。【佐々木一郎】