男子平泳ぎの北島康介(28=日本コカ・コーラ)が、新たな気持ちで世界の舞台に戻ってきた。「ワクワクする。まだ戦えることを証明できれば。いけるぞ、という感じはない。でも気持ちに余裕がある」。4年ぶりの世界選手権。活動休止中だった2年前のローマ大会はテレビの解説者だった。今回は再び選手として勝負の世界に身を置ける。その刺激がたまらない、といった様子だ。

 新たな環境での新たな取り組みが、北島の背中を押した。09年5月、単身で米ロサンゼルスへ渡った。そこで出会ったのが南カリフォルニア大(USC)であり、デビッド・サロ・コーチだった。平井伯昌コーチのもとで五輪2大会連続の2冠という偉業を達成したが、それまでのやり方とは異なる放任主義。選手の個々の裁量に任せ、おのおのが目標を持って練習に取り組む。そんな日常が、忘れかけていた水泳への楽しさを呼び戻した。

 今回の上海入り直前。北島は日本代表の北海道合宿には参加せず、USC所属の代表メンバー、サロ・コーチと都内で練習を続けた。北島が苦笑いする。「あいつら来日はバラバラだし、自由すぎる。予定より早くついて『泊まるとこないよ』とか言うし。タフだよね。自分で上海行きのチケットも取ってんだから」。この言葉は、今の自分にも当てはまることだろう。

 決められた道を通るのでなく、自らの頭で考え、道を切り開き、ゴールを目指す。そんなやり方が、ここ一番で生きてくる。5月27日。北島は宮城・気仙沼を訪れた。子どもたちに勇気を与えるとともに、被災地を「自分の目で感じたかった」。そこで励ますつもりが、逆に「がんばれ~」の励ましをもらった。

 そして今、「自分のできる役割を果たしたい。結果を残して、日本にメッセージを残せれば」と言う。米国で暮らし、日本の良さをより強く感じるようになった。真の日本代表として-。「2011年」という激動の年に、新たな歴史づくりに挑む。【佐藤隆志】