|
|
|
|
|
妻の名前を「肩書」に、紹介される男の心境は複雑だ。トライアスロン五輪代表のエース、平尾明子(24=NTT東日本・NTT西日本)の専属トレーナーで、夫の関根陽一さん(32=小守スポーツ療院)。プロ野球・西武やサッカーのJFLチームなどでトレーナーを務めてきた。関根トレーナーと呼ばれてきたのに、トライアスロン界では「平尾の夫」と紹介されるのには困惑する。「これに慣れたのは今年に入ってからですよ」と苦笑いを浮かべた。 2年前の1998年(平10)5月、関根さんが、交際相手で陸上長距離選手だった平尾にトライアスロンを勧めた。虎ノ門のスポーツジムに勤務していた時、日本トライアスロン連合の猪谷千春会長(68)のマッサージを担当。選手発掘に力を入れていることを聞き、平尾の存在が頭に浮かんだ。陸上の名門ダイハツでは「マラソンで日本記録を更新できる逸材」と言われていた平尾だが、厳しい寮生活や食事制限など規制の多いチーム方針には、不満を持っていた。当初は「陸上で結果を残したい」と悩んでいた平尾を、関根さんがこう説得した。「チャンスはすぐに通り過ぎる。つかむかつかまないかは自分次第。ここ(陸上)で伸びる気持ちがなければ考えた方がいい」と。 関根さんの弟英司さん(27=接骨院経営)は91年、浦和学院高野球部のエースで主砲だった。現巨人の清水は部の同期。高校卒業時にはドラフト候補に挙がっていたが、レベルアップを目標に社会人の日本通運に進んだ。しかし肩を痛め、プロ入りは閉ざされた。「弟の挫折を見ているから彼女にはチャンスは少ないと言えた。僕がトレーナーを目指したのも弟のような選手をケアしたいと思ったのがきっかけ」。 この2年間、関根さんは平尾のサポート役に徹している。昨年から月半分しか仕事をせずに平尾の遠征や練習に帯同。今年2月からは専属トレーナーとして特別休暇も取った。朝の練習中に洗濯と昼食の準備。午後はランニングの練習に帯同し、一緒に家に戻ると夕飯の準備、入浴後にマッサージをする。寝る時間も同じにしている。「彼女のリズムとペースを崩したくないから」。日本代表の妻の黒子役に迷いはない。 今月13日、シドニー五輪代表発表に出席する妻を会見場で見つめた。今年の世界選手権(パース)は日本人トップの9位でメダルは射程圏内。「まだ彼女は余力を残している。最後まで力を全部出し切れるように僕も考えないと」。精神的支柱も臨戦態勢に入っている。【五輪取材班】
(2000年5月20日付) |