第333号 1面記事 神宮を沸かす超本格派 一場 六大学NO.1 その称号を求めて うなる一場(商3)の剛速球に、神宮がどよめく。球速表示は151km/h。スタンドにいた誰かが思わず口走った。「すげぇ、エグイ…」。カスることさえも許さないスピード。だが一場は「納得いかない」。そう言わせるものとは…。 エースの重み 昨秋、開幕戦を完封勝利。他大打線を寄せ付けない投球でチームを引っ張っていた。「この調子ならいける」(田中(嗣)・農3)。一場もチームも勢いづき、軌道に乗っていた。「次も勝てば優勝も見えてくる」(呉本主将・政経4)。相手は春、優勝を目前に砕け散った宿敵・早稲田。因縁の対決に闘志を燃やす一場だが「相手を意識しすぎて自分を見失ってしまった」。初回から連打を浴び、投球のリズムは崩れる。「ここで打たれたら流れが向うに…」。迷いの生じたボールは稲穂打線の餌食となり、またしても玉砕。「情けない。ピンチの時こそエースがしっかりしなきゃだめだ」。たった一球が試合を支配する。一場はその重み、エースであることの意味を痛感した。 進化する剛腕 「俺が負けるわけにはいかない」。もう2度と同じ負けは繰り返すまいと、一番の武器、自慢のストレートに磨きをかける。また「速いだけじゃ勝てない」。切れとコントロールを重視するためフォームを改良した。己のあるべき姿を確立させるべく、ミット目掛けてひたすら投げ込む。その努力はいつまでも続いた。「あんなに野球に一生懸命なヤツは見たことない」(川内学生コーチ・商4)。自分が納得するまで絶対に妥協を許さない姿勢。「上には上がいる。やるしかない」。負けん気の強さと貪欲なまでのその向上心は、一場を大きく成長させていった。 そして3月に入り、一場は徐々に手ごたえをつかみ始める。オープン戦では名将野村監督率いるシダックス相手に完投。負けはしたものの「堂々としとる。強靭な精神力や」(野村監督)。そのマウンド度胸に高い評価を得た。さらに近大戦では貫禄の完封勝利を収める。次々と繰り出されるキレを増したボールを前に相手打線は沈黙。「気迫、オーラがまるで違った」(斉藤・農2)。内に流れる熱きエースの血が騒ぎ始めた。 迷いなき信念 一場の視線の先にあるもの、それは優勝の二文字のみ。「優勝してこそ真のエースと認められる。エースとはマウンドに上がるだけでその場の空気が変わるもの。どんな場面にも動じることのない絶対的な信頼を得た存在」。その表情は自信に満ちていた。一場は自らの右腕でつかみ取る.最強のエースの座、ナンバーワンの称号を――。