菱田騎手は坂の下りでゴーサインを出した。いったん前へ出られたサヴォーナをかわし、先頭に立ったディープボンドの外から馬体を併せる。仕掛けのタイミングとしては早いが、テーオーロイヤルへの強い「信頼」があったから、積極的に攻めていけた。

いつもより前進気勢が強い中でも、走りのリズムは崩さない。鞍上の指示に従順で折り合いもつく。小細工せずに先行集団で競馬を進められるのが、最強ステイヤーの証しだ。3コーナー過ぎ、前を走るドゥレッツァの動きが悪いと見るや一気に前へ。このあたりの判断も的確だった。

直線は早め先頭から抜け出して2馬身差。後続の動きが分からない中で、飛び出すのは勇気がいる。それを可能にしたのは、全8勝すべてでコンビを組み、いろいろな経験の中で培ってきた「人馬の絆」。この馬なら押し切れる。長距離戦での信頼が、菱田騎手の背中を押した。

天皇賞・春を制したテーオーロイヤルねぎらう菱田騎手(撮影・白石智彦)
天皇賞・春を制したテーオーロイヤルねぎらう菱田騎手(撮影・白石智彦)