【金足農】2018準Vのチームづくりも否定?根本から組織作り/毎週水曜連載〈4〉

「金足農らしさとは何か?」

企業コンサルタントの力を借りて取り組んだ「未来創造プロジェクト」の中で議論になり、野球部として共通の認識を持ち、目標に迎える「理念」「ビジョン」などを検討しました。甲子園での実績もある伝統も、過去のやり方もすべて見直す作業でした。

高校野球

チーム戦略

3月末の関東遠征では、積極的な走塁が光った。

初戦の川越工戦で、先頭打者の那須慎之介(3年)が右中間を抜くヒットを放つと、二塁を蹴って三塁に向かった。アウトになったものの、ベンチは沸き立った。

リードオフマンの走塁に引っ張られるように、選手たちは次々に走った。シーズン序盤とあり、判断ミスによる走塁死や、リードを大きく取ってけん制で刺されるなど、失敗もあった。

しかし、チーム全体で走塁の意識を徹底していることは、試合を見れば、すぐに分かった。

リードオフマンの那須。攻守にわたって要となる

リードオフマンの那須。攻守にわたって要となる

金足農では昨年から、プレーに関する「チーム戦略」を定めている。指導者が「基本戦略」「守備戦略」「攻撃戦略」「個人育成戦略」を立て、それを実現するための目標を選手たちが話し合って決めている。

例えば、走塁では「1つ2つ先の塁を奪い取る攻走力」という戦略を立て、選手たちは、進塁を予測するポイントや、相手投手の配球を読んで盗塁を仕掛けるなど、より具体的な目標を立て、チーム内の意識を徹底している。

キャプテンの高橋佳佑(3年)が言う。

「内野、外野、バッテリーと3グループぐらいに分かれて、みんなで話し合いました。全員で話し合って決めると、その目標に向かって頑張りやすいです。練習の段階から、みんなでどうやったらいいか考えて話しています」

指導者からの一方的な指示ではなく、選手が自ら話し合って決めることで効果が高まる。

「もともと仲がいいチームなので普段の会話は多かったのですが、野球になると会話が少なかったかもしれないです。でも、今は練習中でも『オレのバッティングどう?』『ここ直した方がいいよ』といった会話が増えていますね。試合中も相手投手の狙い球とか、守備位置の確認とか、これまで以上に話すようになりました」

こうした作業も、野球部再建のための「未来創造プロジェクト」の中で始まった。

キャプテン高橋。今春はシーズン序盤から本塁打を量産している

キャプテン高橋。今春はシーズン序盤から本塁打を量産している

戦略で甲子園へ

野球部の理念は、なかなか定まらなかった。

企業コンサルタントの大西みつる(ヒューマンクエストCEO、立命大経営学部客員教授)は、金足農の指導陣に、過去の実績、手法をすべて見直すよう求めた。

例えば、大西が作った文書には次のように書かれている。

・2018年準優勝時のチーム作りと指導法では現チームは再生しないという認識を持つこと

・科学的根拠、スポーツ医科学よりも精神性と過去の伝統を重んじるチーム文化のほぐし直しと体質改善

過去のやり方、甲子園で準優勝した2018年のチーム作りも否定する内容である。

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編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。