<東都大学野球:中大9-1東洋大>◇第5週初日◇4日◇神宮

 今秋ドラフトの超目玉、中大・沢村拓一(ひろかず)投手(4年=佐野日大)が、日米14球団スカウトの前で神宮大学生最速となる157キロをマークした。大学生ながら158キロの日本記録にあと1キロと迫り、156キロだった自己最速を1キロ更新。東洋大との首位攻防戦に先発し、8回5安打9奪三振1失点で先勝した。伝説の剛速球投手、同姓の沢村栄治を彷彿(ほうふつ)とさせる快速右腕に、同リーグ異例の約8000人の観衆が酔いしれた。

 ポカポカ陽気のゴールデンウイークに集まった約8000人の目が、スコアボードにくぎ付けになった。1回2死、沢村が3番木村に投じた初球。内角低めへの直球が、見逃しストライクになった。電光掲示板には大学生神宮最速の「157キロ」がともる。沢村は表情を変えずに154キロ、154キロと投げ込み、最後はスライダーで空振り三振に切った。1回は16球中10球が150キロ超え。新怪物は堂々と胸を張ってマウンドからかけ下りた。

 球速表示は見ていない。「スピードに関してはまったく興味がない。チームが勝てればいい。これといってスピードにこだわりはない」と言い切る。2回は155キロ3球を含む、9球が150キロを超えた。相手は首位を走る東洋大。「力というより、気持ちが入った。大事な一戦。負けるつもりはなかったし、負ける気もしなかった」と強気だ。

 1位候補の1人に挙げる巨人山下スカウト部長は「右の本格派で157キロは半端じゃない。うちでは越智とか土本が150キロを超えるけど、157キロなんてクルーンぐらい」と驚いた。神宮のスピードガンは通常より速いとされるが、スカウト陣のガンでも156キロをマーク。中盤以降は140キロ台のフォークやスライダーなど変化球主体に攻めて、投球を組み立てた。

 佐野日大では最速141キロで、外野手兼任の4番手投手だった。成り上がりの野球人生。誰にも負けないものは「練習量」という。シャドーピッチングは「歯磨き」と表現。夜の日課として、試合後は寮のベランダで約2時間フォームを確認する。早出、居残りは当たり前。元オリックス清原氏の肉体改造などを学び、寮の食事以外に鶏肉やシーチキン(マグロの缶詰)でタンパク質を補給。下半身の筋力トレーニングをより効果的にするために、肉体改造にも乗り出した。

 夢はキャデラックに乗ること。「アメ車が好き」とおとこ気にあふれる。冷蔵庫には「ビールとキムチとシーチキンしか入ってない」と言うと、ファンからシーチキンが送られてきた。球場を出る際には約300人に囲まれてサイン攻めにあった。着実にスター街道を歩み出している。

 伝説の剛速球投手、沢村栄治と同姓。今秋ドラフトで、日本プロ野球史上2人目の「沢村投手」が誕生するのは間違いない。「名前で注目されるのはうれしいですけど、それに見合う投手になりたい」と言う。酒はビール、日本酒、焼酎。半端なことは嫌う成り上がりのエースが、春の神宮を熱くする。【前田祐輔】