実績のある監督でなければ、とてもできない采配だろう。重苦しい試合展開の中、同点で迎えた8回の攻防は、原監督の「仕掛けどころ」が満載だった。

まず1死から中前打の4番岡本に代走増田大を送った。これが無死だったり、同点でなければ自然な流れとも言える。しかし、延長戦の可能性もある中での4番の交代は「勝負手」という意識があったはず。この一手が阪神バッテリーに重圧をかけた。ジョンソンは打者に1球も投げない中、2度のけん制球を投げて悪送球。「いつ走ってくるか」と見ていたが、こちらも思わず「あぁ」という声が漏れてしまった。

阪神バッテリーは仕切り直しといったところだろうが、仕切り直す暇さえ与えなかった。初球を投げると、すかさず三盗。1死三塁となってからも「ギャンブルスタート」を仕掛け、決勝点をもぎ取った。

この場面での三盗は「二塁へのけん制がない」や「けん制の癖」が分かっていなければ、なかなか走れない。その直後のギャンブルスタートも、仕掛けていなければ遊撃手の植田はバックハンドでファンブルせずに捕れていたと思う(結果は左前打)。増田大の見事な走塁だが、実績のない若手がここまで思い切ったプレーを連続してできるのは、ベンチの指示があったからだと思う。

左打者が続く8回裏は、抑えの中川を先に投入。9回に登板したマシソンと入れ替えた。この勝負手も、失敗すれば原監督の責任になるのは間違いない。両投手とも走者を出してヒヤヒヤさせたが「責任はベンチにある」という雰囲気があった。選手に思い切ったプレーをさせるために、ベンチが責任を背負う。実績十分の原監督でなければ、できない采配だったと思う。(日刊スポーツ評論家)

8回から登板した中川(撮影・奥田泰也)
8回から登板した中川(撮影・奥田泰也)