広島に3連覇をもたらし、日刊スポーツ評論家に就任した緒方孝市氏(51)が「3連覇思想」を語る3回連載の第1回は、監督に就任し、すぐに実行した“意外な事実”について明かします。

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練習試合が始まった。異例の流れになっている今、怖いのはやはりケガ、故障だ。練習はしていても実戦の動きは違う。何よりも注意する点だと思う。

監督に就任し、最初に決めたのはトレーナーに強い権限を持たせることだった。選手のコンディションを一番、理解しているのがトレーナーだ。いいパフォーマンスができるか、起用できるかは監督、コーチ以上に把握している。

こちらが試合に使おうと思ってもトレーナーからストップがかかれば、やめた。松原チーフトレーナーには毎日、監督室で選手の状況を報告してもらった。もちろん他球団でも既に実行していることかもしれない。それでも徹底した。なぜか。広島には独特の厳しさがあるからだ。

若い頃の話だ。例えば少し腰が痛いな、と思っているときに監督から「いけるか?」と聞かれる。そこで「いや、ちょっと腰が…」などと答えようものなら、もういけない。「そうか」と言われ、出番は来なくなってしまう。

広島から阪神に移籍して連続試合出場記録をつくり、鉄人と呼ばれた金本知憲氏(野球解説者)もそうだ。骨折しても試合に出続けたというのは広島のそんな伝統の中で育った意識が奥底にあったと思う。

とにかく自分が休むことで他の選手にチャンスを明け渡すのは絶対にやってはいけないことだった。だからこそ少々の体調不調なら必死になって試合に出た。

自分の監督時代もそこは同じだ。「いけるか?」と聞いて「いや…」と言う選手がいたら使わなかった。というか1軍に置かなかっただろう。もっと言えば広島にそんな選手はいない。伝統は続いている。

しかし、それが行き過ぎればどうなるか。極端な例だが、大事な試合を前にインフルエンザになったとする。発熱し、つらそうにしている選手に「いけるか?」と聞く。そこで「いけます!」と言うから、じゃあ起用するのかと言えば、それは違うだろう。考えなくても分かることだ。

実はケガ、故障、ちょっとした不調でもそれは同じことなのだ。だからこそトレーナーに権限を持たせ、選手が出ると言っても休ませた。それが勝利のためになると思ったからだ。ファンは「ここでなぜあの選手が出ない?」と首をかしげるときもあったかもしれないが舞台裏には事情があった。応援してくれたファンを含め、みんなの力で成し遂げた3連覇、トレーナーの尽力は大きかった。(日刊スポーツ評論家)