取材をしていると、印象的な言葉と出会うことがある。よく考えて発せられたものだけではない。ふと漏らした言葉だからこそ、その人の本音や心情が現れていることがある。ロッテの今季を振り返って、思い出すのが次の2つだ。

 「アリさん、頑張ってるなぁ」

 「心が折れそう」

 どちらも、西野勇士投手(26)の言葉だ。取材メモには「6月9日、浦和」とあった。その頃、西野は2軍で、もんもんとしていた。先発に再転向して臨んだ今季だったが、昨季途中に患った右肘痛もあり、5月初めから再調整が続いていた。「投げて痛みが出ると思うと…。力を入れられない」と、6月に入るとキャッチボールも控えていた。

 思い切って、靱帯(じんたい)再建手術を受けるべきなのか。悩みの真っただ中にいた頃、練習を終えてクラブハウスに引き揚げる西野の足元に、1匹のアリがいた。自分より何倍もある大きな虫を、せっせと運ぶ姿が目に留まった。思わず飛び出た「アリさん、頑張ってるなぁ」であり、そんなアリを見詰める自分は「心が折れそう」だったのだ。

 幸い、その後の精密検査で、手術するまでの症状ではないことが分かった。同じ取材メモの「6月29日、浦和」の欄には、「良かった! 前より良くして戻らないと意味がない。復活したいですね。もう1年半…。ここ(2軍)じゃないだろって、思われるぐらい良くして。肘だけじゃない。ボール自体も良くなるきっかけにしたい」と記してあった。一転、生き生きした笑顔だったのを思い出す。

 あの日のアリに励まされたわけではないだろうが、9月30日の楽天戦で約4カ月ぶりに1軍復帰。6回5安打2失点に抑え、見事、2勝目を挙げた。かつて絶対的な安定感を誇った守護神が、今は困難にぶつかりながらも、先発という新たな道を進んでいる。そんな彼に贈りたい。

 「西野君、頑張ってるなぁ」

【ロッテ担当 古川真弥】