クリスマスの夜、札幌ドームで行われた大谷翔平投手(23)の「公開記者会見」には1万3000人のファンが駆けつけ、米球界入りが決まった背番号11の巣立ちを見送った。

 会見後には、入団から二人三脚で歩んできた日本ハム栗山英樹監督(56)が捕手役を務め、大谷からの惜別の1球をしっかりと受け取った。その栗山監督が、報道陣へ異例のお願いをしたのは、取材対応が終わる直前だった。

 「本当に皆さん、ありがとうございました。翔平の近くへ行く人もいると思うし、やっぱり向こうへ行ったら大変なこともあると思うので、ぜひ仲間として接してあげて下さい」。

 すがるような懇願に、取り囲んでいた報道陣が恐縮するほどだった。

 栗山監督はキャスター時代、これまで米球界入りしてきた日本人選手をたくさん取材してきた。日本では肩で風を切っていたような選手が、米国で苦悩する姿も見てきたのだろう。孤独にならないか。習慣の違いに戸惑うのではないか。「本人は大丈夫しか言わないので、それを感じ取っていく5年間だった」。おとなしく自己主張が強いタイプではない大谷の性格も十分承知しているだけに、心配で、たまらないのだ。言葉の端々から、異国で新たな目標に挑む愛弟子への愛があふれていた。

 願いは、世界一の選手になること。この日、投打二刀流に挑戦し続けた濃密な5年間に、栗山監督自身も区切りを付けた。二刀流起用についての判断は「1試合1試合、本当に難しかった」と振り返っていたが、来季はテレビの前で活躍を見守ることになる。

 別れがあって、新たな出会いもある。年が明け、続々と新入団選手が入寮して来る。「俺は大谷翔平を信じていた。また、そういう選手を1人でも2人でも多く作っていけるよう頑張ります」と話す表情は、日本ハムの監督に戻っていた。【日本ハム担当 中島宙恵】