超人伝説を目撃出来るか。阪神糸井嘉男外野手(36)が「キャリアハイを」と燃え、20発、30発にも「1本でも多く」と意気込んでいる。沖縄・宜野座でのキャンプでは右翼スタンド奥の森林まで届かせる特大弾を連発。3割、30本、30盗塁のトリプルスリーも夢ではない。糸井は37歳を迎えるシーズン。達成すれば最年長かと思いきや、上には上がいる。元祖・超人がいた。

 記録をたどってみると、故・岩本義行氏(享年96)の名前が挙がった。松竹で活躍し、セ・リーグ1号本塁打を記録。東映時代に選手兼任監督で45歳5カ月の史上最年長本塁打を記録している。バットを胸の前に立てて構える「神主打法」で、167センチ、71キロの体格をカバー。そんな岩本氏が38歳で39本塁打、34盗塁、打率3割1分9厘をマークしている。とんでもない成績だ。

 「ワシが電話したんか?」。昼間の宜野座で、携帯電話が鳴った。発信先は「チョロさん」。日刊スポーツ評論家の広瀬叔功氏(81)だ。携帯電話の使い方が分からず、誤発信してしまったらしい。ことのついでと、岩本氏について聞いてみた。岩本氏と広瀬氏は生まれ年は24年も離れている。だが、同じ広島出身。現役時代もわずかにかぶっている。やはり強烈に印象に残っていた。

 「大先輩よ。豪傑な人だったな」。広瀬氏はとある試合でのエピソードを明かしてくれた。岩本氏は一塁走者。遊撃には南海の小池氏が守っていた。打者が放った打球はセカンドゴロ。南海は当然併殺を狙った。ボールは二塁から遊撃へとわたる。そして遊撃から一塁へ。だが、走者の岩本氏は塁上のラインを外れることなく猛然とダッシュしていったという。ヘルメットはない時代。「岩本さんの頭にボールが当たって、帽子が飛んだんじゃ。でもの、手で頭を軽く払って、悠然と立っとる」。昨日のことのように語る。

 体を使って併殺を阻止し、そのまま何食わぬ顔でベンチに下がっていった。その回が終わった後、小池氏が「恐ろしい」と青ざめていたことが忘れられないという。死球も多く、まさに元祖・超人だろう。

 話は戻って糸井。昨季は故障でキャンプを出遅れたが、今年は順調そのものだ。パワーアップした肉体とどこまでも続く向上心は、まったくおとろえ知らず。38歳トリプルスリーの先人に負けない伝説も、多岐にわたる。「理にかなった打ち方をしとる。スピンをかけるとか、ちょっとしたコツをつかめば40発打てるわい」。広瀬氏は、新たな超人伝説の目撃を楽しみにしている。【阪神担当=池本泰尚】