エンゼルス大谷の、日本ハム時代の練習での特徴のひとつに、「丁寧なキャッチボール」がある。他の選手とは、まったくもって比べものにならない。セットポジションで構え、左足を…上げない。5秒、10秒…納得するまで静止している。ようやく左足を上げても、そこまでの動作に気になるところがあれば、また足を下ろしてやり直す。今度は投げたと思えば、リリースポイントなど腕の動きを確認。1球投げるのに要する時間が、とても多いのだ。さらにキャッチボール後も、外野フェンスに向かってひとりで壁あてを始める。それこそ、ひとつの動作を丁寧に確認しながら。鎌ケ谷であれば、姿見を持ってきて全体像をチェックもする。

 そんな姿を、米アリゾナ州テンピで行われている新天地のキャンプで見ることはない。キャッチボールのペースは早く、チームメートたちは1球ごとにどんどんと距離を取っていく。15分もあれば終了し、次のメニューへと移っていく。「(練習のやり方が)変わるのが普通」。「違いがあって当然」。「こっちのスタイルに対応して、僕が工夫していきたいです」。すべてキャンプイン後の大谷の言葉。アメリカのやり方に、自分がなじもうとしている。

 日本ハム時代とは違うことは、練習のいたるところにある。ブルペンでの投球練習にしても、イニング間を想定して休憩を挟む「アップダウン」という方法は初めての経験。1度のブルペンで30球以上投げることもなく、日本時代と比べ、球数が圧倒的に少ない。だから、たとえば、その日はスライダーを1球も投げず、他の球種を重点的に練習するなど、本人の取り組みにも工夫が見られる。当然、ボールも違うし、マウンドの傾斜も違う。

 ただし米国に来ても、1番大切なものは変わっていない。野球に対して一生懸命な姿と、楽しそうにプレーする姿。それが周囲のチームメートにも伝わるから、言葉の壁はあっても、溶け込んでいけている。チームメートとゴルフをしたり、食事に出かけたりしていると聞くと、幼稚園に入園した娘が、楽しそうに園生活を送っているとわかって安心した、数年前のあのときと似たような感情が芽生えたりもする。

 主砲トラウトは、大谷が挑戦する二刀流について「まず大事なのは、ネガティブにならずに、ポジティブでいること。周りの人たちが助けてくれるということを、理解することだと思う。クラブハウスの中にはベテランの選手も何人かいて、たとえばプホルスにしても、いろんなところで多くの経験をしてきた選手がいる。僕らが彼を手助けしながら、良きチームメートとしてやっていきたいと思う」と、サポートを約束した。変わるものと変わらないもの。メジャー移籍1年目の姿を、追っていきたい。【MLB担当=本間翼】