「まだ満足感がないんですよ」。大一番前日のメットライフドームのベンチ。静かな口調とは裏腹に、西武栗山のバットを握る手には力がこもっていた。

今季は114試合に出場し、打率2割5分6厘、52打点。10年ぶりのリーグ優勝は「もちろん、めちゃくちゃうれしかったですよ」。それでも歓喜から日がたつにつれ、違った思いが頭をもたげてきた。「自分の数字を見ちゃうと物足りないんです。打ってアピールしたい。勝負どころで力を発揮して、勝ちたい」。

結果を出す難しさ、負ける悔しさ、打席に立てないもどかしさ、そして勝つ喜び。酸いも甘いも知るベテランは、原点に舞い戻っていた。「インコースに詰まらされている。変化球を仕留めないと戦っていけない。ヤマを張れる時は張る…そういう今思ってることって、1年目にも感じてたことなんですよ。ぐるっと回って、元に戻った感じ。がむしゃらにやってた頃と今、同じ気持ちになってる」。

入団して17年。打つために膨大な時間を積み重ね、チームを支えてきた男が、ルーキーのように「打ってアピールしたい」と言う。俺が打って勝つ-。この決意こそ、脈々と受け継がれてきた西武の本流だ。「短期決戦は良くも悪くも引きずることはない。そういう戦いが出来るということを、面白いと思わないと損。ワクワクですよ」。ぎらついた勝負師の目。栗山は打つことに飢えている。【佐竹実】