あれから1年が過ぎた。喜び、挫折、屈辱。さまざまな感情を抱き、多くの経験を得てきた。体つきも、一回り大きくなった。17年ドラフト1位で指名された阪神馬場皐輔投手(23)だ。

昨年ドラフトでの阪神は早実の清宮(日本ハム)に1位入札も外れ。続いて履正社の安田(ロッテ)を指名したが、これまた外れ。馬場は「外れ外れ1位」だった。

それでも、「1位で指名されたことは本当にうれしい。まずは1軍で投げられるように準備をしていきたい」と満面の笑みで語った。春季キャンプは1軍スタート。しかしプロの世界は甘くなかった。

「さぁ、やるぞ! ってなったけど、周りの選手みんながすごく見えてしまって…。完全に自分を見失っていました」

甲子園のマウンドに立つ姿は全く想像できなかったが、大きな刺激された夜があった。5月1日の甲子園。DeNA相手に秋山がマウンドに上がっていた。馬場は新人研修で観客席にペンとノートを持って座っていた。1軍にいれば座ることのなかった席だ。

「本当は、あそこに居てはダメなんですけど…。いずれ上がって投げることがイメージできた。秋山さんと自分と照らし合わせて見ました。140キロ前半でも空振りの取れるストレート。打者が速く感じる直球。ガンが全てじゃないんです。スピードで勝負しているわけではないので。150キロが出なくても空振りの取れるストレート。秋山さんには、それがあって、僕にはなかった。コース、キレ、全部を追い求めないと、と思いました」

その日、秋山は9回107球1失点と完投。磨いた直球を武器に9三振を奪った。完璧な内容だった。

「キャンプのブルペンで隣にいた人が、甲子園のマウンドで投げていた。それも見る立場になって。自分も目指すところができた」。そこからの決断は早かった。「(春は)フォームで苦しんだ部分があったので。通用しないなら変えるしかない。細かく言えば1ミリずつ動きを確認しました」と福原コーチの助言もあり、投球フォームを一から見直した。

「自分は変化球投手ですけど、ストレートがあっての変化球だと改めて思った。プロに入るまで、真っすぐに対するこだわりが薄かった。濃く、深く考えるようになりました」

重心を低く、ボールを前で離すことを心掛けた。軸足でバランスを取り「上半身と下半身の連動性を意識するため」と、左足をグラブに当たるまで高く上げるフォームに変えた。「体重移動が今までよりできている。腕だけで投げている感覚がなくなった。フォームを変えていくうちにわかってきた」

そう語ったが、プロの壁は厚かった。8月12日DeNA戦(横浜)。プロ2戦目の先発マウンドで、計り知れない悔しさを味わった。2回3分の2を7安打4失点でKO。試合後、金本前監督からは「今の状態なら厳しい。何か光るものがあればいいけど、見えなかった」とまで言われた。

「1軍で結果を残せる選手にならないといけない。何を言われても、自分は固い意志を持たないと。まずは2軍を抑えないと1軍は見えてこないので。今年は、その段階までいけずに終わってしまった。いいところ、悪いところを全部受け止めて進んでいくしかない。1軍で貯金が作れるピッチャー。それだけを考えてやってます」

馬場は2年目の逆襲を誓っていた。【阪神担当 真柴健】