ロッテの柳沼強スカウト(45)は、感慨深い表情だった。

担当した佐々木朗希投手(18=大船渡)が13日、プロ入り後初めてブルペン投球を行った。「さすがにちょっと力んでたかな」と感じたという。とはいえ、何度も見た生の快速球をこれでようやくチーム内で共有できる。「素晴らしいピッチャーだと、あらためて思いましたよ」と笑った。

現役引退後、19年間ブルペン捕手を務めた。背番号は「92」。それがいきなり昨年、スカウトへの転身を打診された。担当地区は東北全域と関東の一部。「ここに行くにはこの駅で乗り換える…とか、そういうことを覚えるのが大変です」と苦笑いしていたのは、神奈川県内のある強豪校でのグラウンドでのこと。慣れないまま、春を迎えた。

スカウト1年目。顔を売るのも大事な仕事だから、大船渡高ばかりを見ていたわけではない。岩手県の春季大会では、柳沼スカウトがスタンドにいた記憶がない。電車を乗り継いで、東日本を飛び回っていた。ドラフト候補のいない学校にも、あいさつに向かった。それがいつかどこかで何かにつながる-。そう思っているから。

夏が来た。プロ野球のスカウトだからといって、球場に特別席が用意されているわけではない。一般ファンと一緒に、佐々木朗目当てに早朝から入場券を求める列に並ぶ。「そこまでしなきゃ見られない投手。そこまでしてでもいい場所で見たいと思わせる投手」。早朝5時1分から並んだ試合には、松本球団本部長ら幹部も視察し、球団としての佐々木朗の評価を一気に高めた。

ドラフト会議で井口監督がくじを引いた瞬間「ヨッシャー!」と右こぶしを突き上げた。その様子は球団公式動画で公開され、40万回以上再生された。「いろいろ連絡が来て、少し恥ずかしかったけどね」。指名あいさつ前に、佐々木家もその動画はしっかりチェックしていたという。

どれだけ思いを込めて追っても、仲間として迎え入れられるかは運次第のドラフト会議。それでも、縁を信じて追う。石垣島キャンプでも担当した佐々木朗を中心に、新人の心身両面でのサポートを続けた。「朗希は息子と同い年なんだよ」と打ち明けた。

一方で、決めていることもある。「来年以降も、縁あって担当した選手には同じようにしてあげたい。朗希だけ特別なわけじゃないから」。ブルペン捕手時代から、その姿勢に変わりはない。今年からは故郷の北海道も担当になり、行動範囲はより広がる。石垣島キャンプが終わり、担当校が春季キャンプを張る、別の島へ飛んだ。「また、どこかで」と笑って別れた。【ロッテ担当=金子真仁】

佐々木朗希は、松本尚樹球団本部長(左)と柳沼強担当スカウトと記念撮影(2019年11月30日)
佐々木朗希は、松本尚樹球団本部長(左)と柳沼強担当スカウトと記念撮影(2019年11月30日)