<SMBC日本シリーズ2020:巨人1-5ソフトバンク>◇第1戦◇21日◇京セラドーム大阪

紡いできた歴史があるからこそ、生まれるドラマは面白さを増す。ホークス対巨人。日本シリーズでは過去11度対戦。ホークス日本一は昨年と南海時代の59年の2度しかない。いずれも無傷の4連勝だ。

天真らんまんな男のさびしそうな背中を見つめながら、ボソリとつぶやいた言葉を聞いた。「『俺、巨人に行くよ』やったなあ。シゲがそう言ってじっとしとった。こっちを振り向かんのや」。もう60年以上も昔の話である。立大野球部寮の食堂に呼び出されたエースは言葉を返さなかった。南海入りが有力視されていた立大の主砲とエース。呼び出したのは長嶋茂雄氏。黙ってうなずいたのは杉浦忠氏だった。長嶋は巨人入りし不動の4番、杉浦は南海のエースとなった。球団移転で大阪から福岡にやってきた杉浦氏は、しんみりとしながらも懐かしそうに当時を振り返ってくれた。

杉浦忠の投球フォーム(昭和37年の日本シリーズ南海対巨人)
杉浦忠の投球フォーム(昭和37年の日本シリーズ南海対巨人)

プロ入り2年目の秋。2人は日本シリーズで激突した。結果は南海の4連勝。エース杉浦が4連投4連勝。漫画のような活躍で巨人を下し、ホークス初の日本一に導いた。長嶋も15打数5安打、打率3割3分3厘の好成績を残した。

巨人を超える「V10」を合言葉にするソフトバンクにとって、屈辱の歴史は塗り替えなければならない。巨人V9は65年南海を撃破して始まり73年南海を下して完結した。ホークスはプロ野球史に輝く「V9」のアシスト役ともなってしまった。

日本シリーズ第1戦、巨人打線を相手に力投するソフトバンク千賀(撮影・前田充)
日本シリーズ第1戦、巨人打線を相手に力投するソフトバンク千賀(撮影・前田充)

時代は大きく変わりつつある。「盟友の対決」から61年。ホークスは2年連続の「打倒巨人」で頂点を目指す。世界の王も福岡でタクトを振った。悲願だった「ON対決」は00年に結実したが、苦杯をなめた。「巨人を倒してこそ日本一」。2年連続となれば重みも違ってくる。新世紀になり、ホークスは12球団最多の7度の日本一に輝いた。

シリーズ4年連続開幕投手を務めたエース千賀が7回0封とG打線を封じ込んだ。チーム投手陣では唯一の愛知県出身。4連勝のサブマリン杉浦と同郷というのも何とも因縁深いではないか。【ソフトバンク担当 佐竹英治】