なにげない風景に、ふと感心させられた。昨年12月5日にソフトバンク柳田をペイペイドームで取材したときのこと。柳田を中心に扇形を描くように、数人の記者が囲んでいる。コロナ禍の影響で、限られた記者しか取材できないため、私は遠くからその風景を眺めていたのだが、質問に答えている柳田の両腕は後ろで組まれていた。ほぼ直立不動。質問者に顔を向け、マスク越しにしっかり答え、体はほとんど動かない。

柳田は、その取材の半月後に推定年俸6億1000万円で契約を更改した。02年の巨人松井秀喜に並び、日本人野手史上、最高年俸となった。球界では「えらい」人に値するかもしれないが、ギータは違った。帰りの車にいったんは乗り込んだが、記者の要望に応えてわざわざ車から降り、背筋を伸ばし、立って取材に応じた。

取材の仕事を始めて今年で30年になる。いろんな人に出会った。取材を受ける人の態度もさまざまで、こちらが嫌な気持ちになるときもある。ポケットに手を突っ込んだまま話を聞いたり、明らかに年下なのに敬語でなかったり…。取材の態度にいい悪いもないが、心では残念に思うことはある。だから直立不動で答えている柳田に少し心が動いた。

「実るほど、頭(こうべ)を垂れる稲穂かな」

私は「実るほど」の実績がないので、このことわざを実感できないが、謙虚さを失わないことが、どれほど周囲をさわやかな雰囲気にさせるか。柳田の態度を見て、強く感じた。【ソフトバンク担当=浦田由紀夫】

20年11月、日本シリーズ第4戦で逆転の2点本塁打を放ちナインに迎えられる柳田(中央)
20年11月、日本シリーズ第4戦で逆転の2点本塁打を放ちナインに迎えられる柳田(中央)