号泣と親に対する丁寧な言葉遣いが印象に残った。4日の広島3回戦(横浜)で、DeNA三浦大輔監督に就任初勝利をもたらしたのは、プロ4年目の阪口皓亮投手(21)だった。先発で5回を投げ3安打3四球。最速152キロの直球と140キロ台中盤のカットボール、大きな縦割れカーブを軸に無失点に抑えた。後続の4投手が何とか1失点で切り抜け、通算7試合目でプロ初勝利をつかんだ試合終了の瞬間、阪口はベンチで号泣した。

感情の起伏を、豊かな表現力で明かした。前日3日。チームはいまだ、開幕から白星がなかった。開幕投手を務め、2日に2度目の登板で好投した浜口を例に「僕より背負ってるものが多い。自分はまだ少ない」と、気楽に臨める立場だと話していた。大阪出身らしく、ひょうひょうとしている阪口らしい話しぶりだと感じていた。

4日の登板後、広報から配信された阪口のコメントは、前日に話していた内容と全く逆だった。「こういうチーム状況だったので、勝利のために全力で腕を振りました。登板前は、心臓が飛び出るぐらい緊張しました」。思わず読んで「えっ」と声が出てしまった。まさか「心臓が飛び出るぐらい緊張」していたとは。チーム状況が厳しいのは確かだが、推定年俸610万円の投手がそこまで重圧を背負って登板していたとは。どうりでピンチを切り抜けるたびにガッツポーズを繰り出していたはずだと、得心がいった。

試合後、前日からの心境の変化について聞いた。「(前日の)夜より朝起きてからしんどかった。僕自身勝ってないのと、チームが勝ってない。背負ったというより、どこかで流れを変えたかった。少なからず緊張があった」。試合中はどうだったのか。「試合が終わるまで正直(緊張が)解けなかった。投げている時はバッターに集中していた。(降板後は)心臓が動く音を体で感じていた」。試合終了の瞬間に緊張がほどけた。涙はいつ以来か問うと「小学校5年生。いや甲子園を決めて以来ですね。泣くと思っていた。それだけ勝ちがうれしかった」と答えた。

ヒーローインタビューで、三浦監督から譲り受けたウイニングボールをどうするか聞かれた。「お母さんとお兄ちゃんが見に来てくれたと思う。女手ひとつで育ててくれた母に感謝の意味も込めてプレゼントしたい」と話した。その後、あらためて詳しく聞いた。「女手ひとつで3きょうだいを育てていただいた恩があるので。恩返しをしたいので1勝目のボールを」と話した。「育ててもらった」ではなく「育てていただいた」と表現した。心の底から母に感謝をしている様子が伝わってきた。すがすがしい気持ちになった。【DeNA担当=斎藤直樹】